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2015-09-25 00:00
(連載2)イランとアメリカのデタントは考えにくい
河村 洋
外交評論家
また湾岸地域の地政学も本質的に不安定である。イスラム革命以来、近隣アラブ諸国はイランを信用していない。これはイラン・イラク戦争でアラブ諸国がサダム・フセインを支持したことに顕著に表れている。サウジアラビア、クウェート、ヨルダンといったアラブ王制諸国は非常に保守的で、バース党体制下のイラクとはイデオロギー的に水と油であった。しかしシーア派革命の輸出というイランの国家理念はスンニ派の君主制諸国に多大な危機感を抱かせたので、イランの脅威に対抗するためにイラクに頼りきった。この同盟はサダムによる後年のクウェート侵攻に見られるように、非常に脆弱であった。現在、核合意によってイランの脅威に対するアラブ諸国の懸念が非常に高まっているので、これらの国々では国防力が急速に強化されている。サウジアラビアはロッキード・マーチン社との間で最新鋭のフリゲート艦とTHAAD(終末高高度防衛)弾道ミサイル迎撃ミサイルシステムの購入の交渉を進めている。クウェートもイタリアとタイフーン戦闘機28機の購入で合意した。ユーロファイター・コンソーシアムは次のタイフーン輸出先としてバーレーンにも注目している。
これらの動きから、ヨーロッパ諸国もイランとの核合意によって湾岸地域に平和と安定がもたらされるといった白昼夢など信じていないことがわかる。ヨーロッパがこの合意を支持するのは、制裁解除後に新規の市場とエネルギー供給源を求めてのことである。フランスはサルコジ政権期にすでにアラブ首長国連邦に海軍基地を設置している。イギリスも昨年、バーレーンへの海軍基地建設で合意した。フィリップ・ハモンド外相は「イギリスとフランスがオバマ政権によるアメリカのアジア転進がもたらす中東での力の真空を埋める」と語った。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はオバマ大統領と頻繁に会談してイランの真の脅威を理解するとともに、これまで以上に断固たる対応を要求している。こうした事情を踏まえて私は以下の問いかけをしたい。SALTが締結された時、ヨーロッパの同盟諸国と日本がソ連の脅威に対してこれほど危機感を強めただろうか?
地域内の安全保障環境とともに、イランの政治についても議論すべきである。核合意の有無を問わず、イランは依然として強硬な態度をとっている。アリ・ハメネイ最高指導者は「この合意はきわめて例外的だ」と明言し、アメリカとイスラエルへの呪詛とシリアのアサド政権への支援は続けている。革命防衛隊はさらに「アメリカとイスラエルを根絶する準備ができている」とまで言明している。ハッサン・ロウハニ大統領とジャバド・ザリフ外相は穏健派と見なされている。しかし外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員は『ロサンゼルス・タイムズ』紙への2013年11月4日付の投稿で「ロウハニ師にゴルバチョフ氏の面影を見るのは夢物語で、実際にロウハニ師はシーア派神権政治の民主化には関心はないばかりか、近隣諸国に対する拡張主義の方針も捨て去っていないが、ゴルバチョフ氏はベルリンの壁崩壊直後の東欧諸国に広まった自由を求める動きを抑え込もうとはしなかった」と論評している。さらに銘記すべきは、最高指導者はシーア派神権政治を代表し、その権力も革命防衛隊のような教条主義的な忠誠を誓う勢力を基盤としているので本質的に強硬派だということである。大統領がどれほど穏健派であっても、これを乗り越えることは非常に難しい。
核合意が成立しても米・イラン間のデタントはきわめて考えにくい。ヨーロッパと中東でのアメリカの同盟諸国はこれをよく理解している。しかし日本の国会では安保法制の議論で、ペルシア湾には脅威が存在するのかといった非常に初歩的な質問がなされていた。しかしイランの脅威はこれほど大きなものである。今回の核合意は地域の平和を保障するものではない。間違ってもそれに希望を託してはならない。(おわり)
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