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2015-09-27 00:00
護憲グループのガラパゴス化を憂う
松井 啓
大学講師、元大使
新安保法制は衆参両院による長丁場の審議により先週ついに可決された。その過程では「戦争法案」「徴兵制の復活」「違憲法案」「戦争に巻込む」「地球の裏側まで派兵」「若者を死に追いやる」「平和憲法を守れ」等々、扇情的なスローガンで反対運動が展開された。戦争を体験した老齢層(特に女性)に加えて、通常は政治に無関心で選挙の投票率30パーセント以下の青年たちが声を上げたのには違和感を覚えた。本当に日本の安全を憂えたのか。単純にインターネットなどで煽られて参加感、一体感、群集心理による臨場感を体感したかったためだろうか。今後の成り行きを見守りたい。
そもそも憲法9条は日米安保条約と対をなしたもので、終戦直後アメリカは日本を軍事的に無力化して、二度と戦争ができないようにする代わりに、日本の安全は請け負う(保障する)つもりであった。だから、朝鮮戦争、ソ連の台頭などその後の国際情勢が劇的に変化した過程で、日本は憲法を改正するのがまっとうな方法であった。しかし、70年近く改正しなかったのはアメリカの庇護のもと経済発展にエネルギーを注ぎ、奇跡ともいわれた成長を遂げ、「平和ボケ」したためであった。日本の安全は日本人が守るという基本的な気概がその間に消失してしまっていたからである。
私自身は法律学者でもなく、憲法学者でもないが、素人的な発想からすれば、憲法は権力暴走の歯止めのためにあるとする古典的な概念は尊重すべきであるが、そもそも憲法は国民の生命と財産、国の安全を守るためのものであるので、自国の安全を確保するために国際情勢の変化に応じて憲法を変えていくのが独立主権国家の姿であると思う。日本国大使館等の在外公館では海外駐在武官は軍人(military attache)として扱われ、任国の政府関係者との接触、他国の武官や軍事関係者の種々会合に出席する等して、情報を収集している。未だに自衛隊は違憲であると主張する人々はこれらの行為をも違憲とみなすのであろうか。自衛官のステータスを確立させて、適切な身分保証をすべきであろう。
危険が迫ると穴を掘って首を突っ込んで見ないようにするといわれるダチョウになってはならない。「平和、平和」「戦争反対」と呪文を唱えていれば平和になるとはとても信じられない。国際社会はそれほど素朴な世界ではないからだ。主権国家の安全は外交と軍事の両輪が機動的にバランス良く働いて初めて守られる。70年間近く一回も改定されなかった「平和憲法」をユネスコの文化遺産に登録したいという人たちは、国際標準から遠くかけ離れた、まさに世にも稀なる絶滅危惧種として申請してはどうか。日本の安全保障はアメリカの核の傘の下に入っていることによっても補強されていることも忘れてはならない。国力の増大とともに軍事大国を目指している中国と軍事大国復活に励んでいるロシア、そして核による威嚇を試みている北朝鮮は、地理的な関係から日本とは切っても切れない間柄である。新安保法制及び憲法改正についても、今後大局的長期的視野から一般の人々に丁寧に説明していく必要がある。
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