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2015-09-30 00:00
ロシアとの領土交渉は「急がば回れ!」
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
領土問題解決にあたって、ロシアに友好的姿勢を示せば譲ってくれる、というのは幻想である。ロシア的心理では、彼らの強硬姿勢に対し日本が「対話」が重要だと宥和姿勢で応じれば、それをただ「弱さ」と見るだけだ。そして弱者との交渉では、ますます高圧的、恫喝的な態度で臨むようになる。今、それが現実になっている。私はソ連時代に、ロシア人は友好国を軽視し、逆に緊張感を抱かせるだけの力を持っている潜在的敵国に対しては、たとえ「嫌な国」だと思っても、内心は尊敬し一目も二目も置く、と述べた(拙著『深層の社会主義』1987)。このロシア人の心理は今もまったく変わっていない。わが国の政府や政界には、「ロシアに北方領土を実効支配されている以上、日本側からは強い態度に出られない」との見解が強いが、国際的な外交常識から外れた発想である。
日本政界のこのような非常識な発想が公になれば、尖閣を占拠し実効支配しようとする中国を、あるいは竹島を実効支配している韓国を勇気づけるだけだ。国際政治では、ある国が主権を侵されている場合、その国が相手国に強く抗議すべきであるし、それが出来ないのはまともな主権国家ではない、というのが外交常識である。今、対露外交に最も強く求められていることは、日本を「弱者」として蔑視している現在のロシアの対日姿勢を変えさせることである。ロシアが日本の主権を無視して、理不尽な強圧的態度に出ているのに、「問題解決のためには、日本側から対話の扉を閉ざすのは得策でない」と言って宥和策に出るのは、ますますロシア側の対日蔑視を強めるだけだ。長期的観点から見ると、一時的にロシア側から「嫌な国」だと思われても、一目も二目も置かせる国になる方が、対等で良好な日露関係を構築するためにははるかに重要である。そのような日本の対応に対して当然ロシア側は、政治、経済その他の分野で圧力や脅しをかけてくるだろう。その時日本側は痛みを覚悟しなければならない。その覚悟の真剣度や本気度が、日露関係のあり方を決めるのである。
これまでの日本政府の対応のように、どこにも痛みが出ない形での「抗議」を相手が真面目に受け取る筈がない。もちろん、主権擁護の問題で日本政府が筋を通して、その結果として経済分野などで困難が生ずれば、民間企業にその負担を押し付けるだけでは無責任だ。国家としてその「痛み」に対応する措置をとり、国民にもその理由をしっかり説明する必要がある。これは「主権問題には真剣勝負として対応する」という政府の覚悟を内外に示すことでもある。そして特に強調したいことは、ロシア側が「日本は本気だ」と悟った時、はじめて本当の対話や交渉が始まり、それが真に正常な両国関係の樹立にも繋がるということである。「急がば回れ」と言う格言がある。ひたすら日本側から低姿勢でロシアに対話を求め、年内のプーチンの日本への招待に拘ることは、果して正しいのか、という問いでもある。
わが国にとって、将来的には対中関係の方が対露関係よりも難しくなる可能性がある。従って長期的には、ロシアと良好で安定的な、そして相互に尊重し合う関係を構築することが、戦略的にも重要である。私の言は、ロシアと対立するための言ではなく、真に対等かつ良好な二国間関係を築くための提言である。
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