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2015-10-14 00:00
(連載2)TPPへの中国参加の呼びかけを維持せよ
角田 勝彦
団体役員、元大使
安倍首相は、来年7月の参議院選挙などを見越した事態沈静化の意味もあってか、軸足を経済・社会に移している。安保闘争で岸内閣が退陣した後受け継いだ池田首相が所得倍増計画を打ち出し成功した前例にならいたいようである。具体的には9月24日の記者会見で、アベノミクスの「新3本の矢」の目標として国内総生産(GDP)600兆円、出生率1.8、介護離職ゼロを掲げ、10月7日の記者会見では今後の3年間の課題について「最大の課題は『1億総活躍社会』の実現だ」と指摘した。
問題は具体性に欠けること、とくに財源のめどが示されていないことである。実はほとんどが今後の経済成長にかかっている。政府の中長期財政試算の通り実質2%、名目3%の経済成長が実現すれば、2021年度にGDPは619兆円になる。景気がよくなればそのほかの指標も改善しよう。税収増により社会保障も充実され国民の気持ちも変わろう。残念ながら現実は厳しい。日本の直近の成長率である2015年4~6月期の実質GDPは年率換算1.2%減で3四半期ぶりにマイナス成長を記録した。2017年4月には消費税の10%への引き上げも控えている。世界経済の見通しも悪い。国際通貨基金(IMF)は10月6日、世界全体の実質GDPの前年比伸び率を3・1%と7月時点の予想より0・2ポイント下方修正した。国際通貨金融委員会(IMFC)は、9日「世界経済のリスクが増大した」との認識を示した。
株価の低迷もありアベノミクスの失速が懸念されている。政府は2016年度予算の概算要求や16年度税制改正要望で、アベノミクスの「第3の矢」と位置づける成長戦略の関連分野に重点を置く方針とされる。正しい方向である。TPPは成長戦略の起爆剤になり得る。詳細は不明だが、財貿易の関税引き下げに加え、投資・労働・知的財産など31項目の統一ルールを作る協定の意義は大きい。米国のクリントン大統領候補が不支持を表明したような懸念材料はあるが、「6カ国・GDP85%」以上の合意が行われ、新たな基準に基づく、世界GDPの約4割を占める巨大な自由貿易圏の出現が期待される。
これはロシアが懸念しているような閉鎖的なブロックであってはならない。中国は2001年世界貿易機関(WTO)に加盟したがそのルールも履行しかねているにかかわらず、アジアインフラ投資銀行(AIIB)などを活用し、巨大経済圏の構築を目指す「一帯一路」構想を推進しており、その覇権的恣意的行動を抑止することは重要であるが、TPPに引き込む度量が必要である。世界経済に占める重要性から見ても排除は好ましくない。8月の通貨別決済シェアで人民元は2・79%。日本円の2・76%を抜き、国際通貨として米ドル、ユーロ、英ポンドに続く第4の座を占めたのである。安倍首相は10月6日の記者会見でも「将来的に中国も参加すれば、わが国の安全保障、アジア地域の安定にも寄与し、戦略的に大きな意義がある」と、中国にTPPへの参加を呼びかけたが、この姿勢の維持強化が必要であろう。(おわり)
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