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2015-10-27 00:00
「英中蜜月」時代に問われる安倍外交の真価
鍋嶋 敬三
評論家
「英中蜜月時代」は到来するか?中国の習国家主席とキャメロン英首相の会談(10月21日)は「英中関係の黄金時代」「グローバルな包括的戦略パートナーシップ」をうたいあげた。中国製の原発採用など400億ポンド(7兆4000億円)にのぼる投資、貿易の契約、人民元の国際化への英国の支援など、両国間の経済協力関係が一気に進展した。一方、中国国内の人権問題や香港統治、南シナ海をめぐる紛争など、国際関係に影響する政治課題は封印された。中国の狙いは一帯一路(新シルクロード)構想を進展させ、ユーラシア大陸で影響力を圧倒的なものにすることである。キャメロン政権は、英国が中国と欧州の橋渡し役となる経済的メリットは計り知れないと計算したのだ。
しかし、世界にとって無視できない問題が残されている。英国が、民主政治の「本家」でありながら、中国のチベット、新疆ウイグル自治区の人権問題を素通りし、南シナ海の安全保障問題に目をつぶったことだ。中国におもねる実利主義のキャメロン外交は同盟国・米国の利害と衝突、伝統的な英米の「特別な関係」に悪影響を及ぼし、先進7カ国(G7)の結束を乱すことにつながる恐れがある。半年後の2016年5月、日本で開くG7首脳会議(伊勢志摩サミット)で議長を務める安倍晋三首相のリーダーシップの真価が問われている。英中関係を論じたJ-P.レーマンIMD(スイスのビジネススクール)名誉教授は、第二次世界大戦後「帝国」を失った英国が熱望する役割は、中国の「欧州への玄関口」になることだと言う。米国の反対を無視して、中国提唱のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設国になったのは重要な布石だった。
同氏は、英国の対中関与は「中国の人権、統治の改善に非常に役立つ」と、キャメロン外交を高く評価した。しかし、これは恐ろしく楽観的な見方ではないか。中国共産党の独裁政権下にあって、民主的統治や人権の改善につながる保証はない。米ブルッキングス研究所のP.ルコレ客員フェローは、英国が「西側における中国の無二の親友になりつつある」と評した。この5年間に英国は欧州における中国の最大投資国になったことで「政治的配当を生んだ」。英国は中国との間で物議を醸す人権やチベット問題を避けてきた、というわけである。英国が米中間の「仲介役」になるとしても、実際にうまく行くかどうか、同氏は懐疑的である。原発や通信などの安全保障に関わる分野にまで中国企業の参入を認めるキャメロン首相の対中外交に、オバマ米政権は懸念を強めているからだ。
ワシントン・ポスト紙は社説で、英中会談で人権問題は「一語も出なかった」と批判した。キャメロン首相の戦略は、中国の欧州での一番のパートナーになることであり、経済的利益しか頭にないとこき下ろした。このような首相の「無原則な熱意」はトラブルを起こすだけだと警告、南シナ海や香港問題などで「米国と結束するのかどうかという問題が生じる」と懸念を示した。中国はフランスやドイツとも毎年のように首脳交流を活発化させており、メルケル独首相が10月29日、オランド仏大統領が11月2日にそれぞれ訪中、欧州との関係は一層深まる。安倍政権下で日本は対米安保同盟関係を強化しており、AIIB政策も含めた対中政策もその延長線上にある。しかし、英国の対中傾斜による米国との溝がG7に影を落とし始めた。英国に負けじと独仏首脳の相次ぐ訪中も注目である。伊勢志摩サミットで采配を振るう安倍首相の外交手腕が試される。
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