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2015-10-28 00:00
米の南沙強硬策テコに中国包囲網強化を
杉浦 正章
政治評論家
産経のようにはやばやと「日米で共同パトロール」だとか、「安保法制適用」だとかと、馬鹿丸出しの軍艦マーチを鳴らしてはいけない。米艦による中国の人工島の12カイリ内航行が意味するものは、まだまだけん制の段階であり、米中両国とも「管理された緊張状態」を続ける魂胆とみなければなるまい。そしてこの状態は長期に継続する。おそらく事前にすべての情報を得ていたであろう首相・安倍晋三は、支持を表明したものの、日本の軍事的対応には踏み込んでいない。官房長官・菅義偉も共同パトロールなどを否定している。政府が当面取るべき対応は、米国の強硬策を奇貨として、外交的な対中包囲網強化に動くことだ。11月にはG20の首脳会議やアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議が立て続けにある。これを好機ととらえ、14年5月に安倍がアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)で「海や空の安全を保ち、航行の自由、飛行の自由を保全しようとするASEAN各国の努力に対し、日本は支援を惜しまない」と発言、万雷の拍手で歓迎されたように、外交的に中国を孤立化に追い込むべきだ。
10月22日の本欄への拙稿「米艦船の中国人口島沖派遣が秒読み段階に」で書いたように、20日の米国家安全保障会議(NSC)のアジア上級部長・クリテンブリンクと首相補佐官・河井克行の会談で米側は詳細に「航行の自由作戦」の内容を伝えてきたに違いない。安倍や菅の談話を見ても、事前に周到な準備があったことが明白だ。安倍は作戦を「国際法にのっとった行動であると理解している。南シナ海における大規模な埋め立てと拠点構築は現状を変更して緊張を高める一方的な行動であり、国際社会共通の懸念である。我が国は開かれた平和な海を守る為に同盟国である米国を始め国際社会と連携してゆく」と支持を表明した。米国がこの時期を選んだのは、時期的に中国包囲網を結成する絶好のチャンスであるからだ。また政権揺さぶりのチャンスでもある。おそらく米国はそれも狙ったのであろう。折から中国では共産党の重要会議第18期中央委員会第5回総会(5中総会)が開かれている。26日から29日までの会議は、外部には漏れにくいがこれまでも共産党の改革派と保守派が真っ向から論争を展開しており、国家主席・習近平の面目丸つぶれの米国による「領海侵犯」が論争の対象になる可能性が高い。反習近平派にとってはもってこいの揺さぶり材料になる。「ボーイングの旅客機300機購入する返礼がこれか」といううことになるのだ。
オバマは明らかに、米中首脳会談が南沙問題をめぐって決裂した結果を受けて、作戦を決断したに違いない。会談後の記者会見では「米軍は国際法が許す場所であれば、どこでも行く」と海軍による南沙諸島航行を明言。これに対して習近平は「南シナ海の島々は古来中国の領土」と譲らなかった。習の対応を見て、迷えるオバマは、ようやく国防総省が主張してきたとおりの作戦の実行に踏み切らざるを得ないと思ったのだろう。任期切れまで1年あまりとなったオバマにしてみれば、いったん強硬攻策に踏み込んだ以上、任期中は後には引かないし、引くに引けないことを意識したに違いあるまい。明らかに中国側には誤算があった。オバマはまさか軍事行動には出ないだろうと思っていたのである。中国側の当面の対応も抑制的であり、イージス艦の通過を追尾しながらも黙認するという“屈辱的”な対応しか出来なかった。人民日報系の環球時報は、15日の社説では「中国は海空軍の準備を整え、米軍の挑発の程度に応じて必ず報復する」「中国の核心的利益である地域に米軍が入った場合は、人民解放軍が必ず出撃する」と勇ましかったが、結果は“遠吠え”であったことが分かる。
習近平も就任当初は、とかく“独走”しがちな軍部に抑制的に動くことが出来なかったが、最近では力を付けて、コントロールが利くようになってきたと思う。習近平にとってみれば、米国と一戦を交えれば完敗するのであり、完敗すれば自らの地位が危うくなる。ついには共産党政権自体が揺さぶられることにもなりかねない。これはどうしても避けたいのである。一方、オバマの唱えるリバランス(アジア回帰の再均衡)は、中国の南沙進出で、口で唱えるだけでなく、実際の行動を求められる段階へと移行した。しかし、米国にとっても大きな貿易相手国である中国との経済関係を毀損(きそん)することは避けなければならない。米国の抱えるジレンマは、自ずと軍事行動に抑制的に働くのである。
こうして両国とも、直接的な武力衝突には慎重なのである。しかし、いったん踏み込んだ以上、米国は南シナ海における軍事的プレゼンスを後退させるわけには行くまい。したがって南シナ海では、中東やウクライナと同様に一触即発の状態が継続するだろう。イージス艦1隻程度の侵入で済ましているうちはよいが、長期的かつ全面的な対峙に発展すれば、当然米国は日本やオーストラリアなど同盟国との連携に動く。日本としても南シナ海はシーレーンの急所であり、死活的に重要なポイントである。“長期戦”で息切れした米国が日本に協力を求めることはあり得ることだ。日本もかつてインド洋で給油活動をしたように、将来的には何らかの後方支援と連携が必要となるに違いない。さらに安倍が表明しているようにフィリピンやベトナムへの巡視船の提供など、関係国支援も急がなければなるまい。米軍との共同パトロールはまず隣接国のベトナム、フィリピンに委ね、そのための船舶を提供すれば十分だ。日本は東シナ海のパトロールも重要であり、南シナ海まで常時カバーする余裕はあるまい。
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