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2015-10-28 00:00
(連載1)アメリカ海軍航空戦力の進化と課題
河村 洋
外交評論家
現在、アメリカ海軍および空軍の航空戦力は岐路に立っている。それは以下の理由による。第一にアメリカが保有する戦闘機および攻撃機は耐用期限が迫り、次世代への移行期にさしかかっている。第二に新しい航空戦力では最新の技術と航空戦の概念の変化に重点が置かれ、従来の格闘戦を想定した機動性やスピードよりもステルス性、情報融合、状況判断が重視されている。第三に国際安全保障環境は近代どころか前近代の勢力競合に戻ってしまった。空のパックス・アメリカーナは多種多様な脅威に直面し、ロシアと中国が航空戦力を強化する一方で、イランやテロリストも国際秩序への抵抗を強めている。第四に冷戦終結から国防支出に厳しい制約がかかり、アメリカの航空戦力は質の面でも量の面でも刷新が妨げられている。アメリカ海軍はこうした問題をどのように乗り越えるのだろうか?
アメリカ海軍の航空戦力の概要については、戦略国際問題研究所(CSIS)が8月12日に「海軍航空隊」と題した公開討論会を開催し、ジョセフ・プルーアー退役海軍大将の司会でジョン・デービス海兵隊中将とマイク・シューメーカー海軍中将が講演した。海軍航空隊には多様な目的で様々な種類の航空機から編成され、戦闘機や攻撃機から補助的な役割をこなすもの、指揮命令系統を担うものまである。その全てが艦載機ではなく、陸上機もある。こうした観点から、CSISの討論会は海軍の航空戦力の現状と戦略を明解にまとめた。しかし、議論が航空機のマルチロール能力と陸上への戦力投射に集中し過ぎていたので、私は敵の戦闘機やキャリアー・キラー・ミサイルからの艦隊防空がほとんど話題にならなかったことには疑問を呈したい。確固とした制空権に守られてこそ、空母機動部隊は多様な任務を遂行できる。いわば完全な艦隊防空は、空母打撃部隊が攻撃する敵への一種のモンロー・ドクトリンである。
そこで討論会について述べたい。両パネリストとも戦闘機よりも、ロジスティクス、電磁戦、サイバー戦、近接航空支援、偵察、対潜および対艦作戦など多様な任務をこなすヘリコプターについて多くを語った。また新時代の戦争に向けて友軍の航空機や艦船との情報の融合と共有も強調された。そうしたヘリコプターの中でも最も取り上げられたのが海兵隊のV22オスプレイである。ティルトローターによってオスプレイは他のヘリコプターよりも速く遠くに飛行できるので、陸上への戦力投射には非常に有利である。またオスプレイは上陸作戦だけでなく、精密爆撃や長距離通信にも活用できる。アメリカ海軍がオスプレイを導入するに当たっては、海兵隊からノウハウを学んでいる。多様な用途に柔軟に利用できるV22は、アメリカの同盟国の中からも注目されている。例えばイギリス海軍のクイーン・エリザベス級空母が65,000トンと巨大なのはV22およびCH47チヌークをハンガーに格納するためである。
無人機も重要な論点であった。デービス中将は将来における、任務によるヘリコプターの有人と無人のオプション利用についても語った。実際にシコルスキー社はすでに昨年5月に「陸軍が同社のUH60ブラックホークの無人機型を単調で危険な任務にこれから使用してゆく」と認めた。しかし完全なUAS(無人機)としては、シューメーカー中将の発言にもあるように、すでにMQ4CトライトンがISR(情報・監視・偵察)任務に使用され、UCLASS(空母艦載無人偵察攻撃機)が試験を重ねている。初期段階での偵察での情報を総合表示した画像が攻撃飛行隊に送信され、攻撃目標が設定されることになる。
そうした新しい概念や技術もさることながら、戦闘機による攻撃および防空こそが海軍航空隊の中核である。海軍と海兵隊はFA18ホーネットおよびスーパー・ホーネットをF35BおよびCと交代し、ステルス侵入とさらに重要な情報の融合と共有といった重要な新時代の要請を充足しようとしている。しかし、F35計画は遅延が甚だしく、特に空母艦載のF35Cの配備は2020年代になってしまう。よって、海軍と海兵隊は旧ホーネットとスーパー・ホーネットの耐用期限を6,000飛行時間から9,000飛行時間に延長している。それでもすでに耐用期限に達した機体もあるので、ボーイング社は今年の10月に現役機へのSLEP(耐用期限延長計画)だけでなく、スーパー・ホーネットの新規製造も提案して戦闘機総数の激減を食い止めようとしている。しかし戦闘機の数が真の問題ではない。両パネリストとも海軍の制空権に関してはほとんど語らなかった。それがなければ、海軍と海兵隊が構想するいかなる多用途作戦も実行できなくなる。FA18E/Fスーパー・ホーネットであれF35Cライトニングであれ、防空には特化していない。(つづく)
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