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2015-10-30 00:00
中国メディアは、「米艦艇は張り子の虎」というが
山田 禎介
国際問題ジャーナリスト
先月始めの北京での大軍事パレード。現代中国では伝統の中華思想もどうやら文化ではなく、軍事面に顕著に現れるようである。かつて筆者は本欄に「中国の海洋戦略は政治的思惑先行?」( 2009-02-10)と書いたが、どうやらいまや中国は、その政治的思惑を超え、自己願望を現実と錯覚した状態でないかとさえ思う。今回の米国が決行した南シナ海南沙「航行の自由作戦」での、米イージス艦ラッセンの行動について中国メディアは、「米艦艇は張り子の虎」と評したが、でも中国軍部トップは米艦艇が張り子の虎ではないことをイヤというほど承知しているはずなのだが。
米海軍のカテゴリーでは高速ガスタービン推進の「誘導ミサイル駆逐艦」であるラッセンが単独行動をするはずもない。はるか上空でのP8ポセイドン対潜哨戒機とのリンクを始め、イージスシステムで活動する機能のほんの一部を示したに過ぎない。米海軍ではイージス艦のみで、もはや空母抜きの水上戦闘群を編成しているほどだ。現代の水上艦の作戦行動は海面と上空という次元を超え、大気圏外の偵察衛星もリンクした、いわば多元立体システムで運用されている。弾道ミサイルのレーダー探知、追尾から艦隊防空、さらに自艦の防衛まで一挙にやってのける高度なシステムが構築されている。
それを生み出した原動力が皮肉にも旧ソ連の軍事力。冷戦時代のソ連は米空母群に対する攻撃手段に爆撃機、潜水艦から米側迎撃能力を超える大量のミサイルを放って撃破する「飽和攻撃」を戦術として取り入れた。飽和攻撃は結局、戦力下位の国のものであり、極端なことを言えば、19世紀末の南ア・ズールー戦争で、英正規軍を包囲殲滅しようとして敗れたズールー王国の大軍、また朝鮮戦争での中国の人海戦術と同じかもしれない。そして米国は、これに対抗するイージスシステムを開発したのだ。結局空母運営能力のないまま、ソ連邦は崩壊した。中国はその旧ソ連からウクライナに譲られた空母を買い受け修理再艤装、初の空母「遼寧」とした。その時代の技術を参考に新たな空母建造を行っている。またウクライナ空母にはまだなかった艦上戦闘機射出用のカタパルトも、フランス海軍の電磁式を導入したようだ。
だが、かつて米海軍高官が指摘したように、空母運用には多大なコストと高度の技術が必要で簡単ではない。その苦肉の策が米空母艦隊の「接近阻止・領域拒否」戦略。今年の北京天安門パレードにも登場した「空母キラー」ミサイルがそれだ。でもこのミサイルにしても下位戦力国のやむを得ないワザだ。英空軍と違い、米空軍創設は第二次大戦後。米国では長らく海軍、陸軍の航空隊が航空戦力をになってきた。そんななか、どんな荒天でも艦載機群は空母飛行甲板上にずらりワイヤー係留され、存在感を示すのが米海軍航空隊の自負。艦載機運用者や関連軍事産業にとっては気になるところであろうが、でもいまや航空戦、艦船防空の航空機は影が薄くなった。歴史的には戦艦同士の海戦、そして第二次大戦での空母機動部隊艦載機の航空戦と変化したものだが、戦艦はすでに無く、空母ですら”ショー・ザ・フラッグ役”が大きい。いまや対テロ、ゲリラ戦の移動兵站基地役を担うことが多く、戦略原潜すらも一部が対ゲリラ戦に転用されている。
また現代の艦船の主砲は軍艦のステータスで飾りに近いが、最新バージョンのイージスシステムでは、レーダーと火器管制システムを一体化した完全自動の防空システム(ファランクス機関砲)すらも”お役ご免”のようだ。それほどイージスシステムでの対空ミサイルの運用精度が向上しているという証しだろう。ところで冷戦時代の1976年、ソ連のべレンコ中尉が搭乗するMIG25迎撃戦闘機が函館空港に亡命強行着陸した事件はある種の冷戦崩壊の端緒だった。当時、秘密のベールに包まれていた最新鋭機MIG25は、意外なことに通信機には真空管、またジェットエンジンの高熱排出口には、目を疑う旧式の鋼鉄部品が使われていた。秘密のベールに包まれたものが過大評価される典型だ。それはいまでも同じような傾向にある。現中国海軍ではミサイル搭載駆逐艦などに、ファランクス機関砲とは似て非なる多砲身高速回転機関砲が最新兵器として、誇らしげに搭載されているほどだ。
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