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2015-11-18 00:00
地上からテロをなくすために
赤峰 和彦
自営業
フランスで起きたイスラム過激派ISによる同時多発テロ事件は国際社会に大きな衝撃を与えました。テロの被害にあったフランスでは、国歌を歌い、報復を鼓舞して、怒りの矛先をISや、国内にいるイスラム教徒にも向けられようとしています。しかし一方で多くの国民は、やり場のない悲しみとともに厭戦感が広がりつつあります。また、先日、旅客機が撃墜されたロシア政府も報復を考えています。G20サミットではテロ対策が取り上げられ、そこでは、非難声明を出すだけではなく、金融制裁や報復攻撃などが議論されました。報復の応酬を繰り返そうとしているのです。これは双方が憎しみを増幅させるだけで何の解決にもなりません。一方、イスラム教文化圏にある諸国はISのテロに対する憤りはあるのですが、反面、心情的には西欧に抵抗する過激派組織を理解している部分もあり、この姿勢が長年にわたってテロ行為がやまない原因となっています。
今回のテロ事件について、マスコミは「ISが緻密な計画のもとに同時テロを行った」「意図的に13日の金曜日を狙った」「フランスのオランド大統領がサッカーの試合を観戦していることを知っての犯行」「効果的な週末の夜を狙った」「ISの中枢部の計算された戦略だ」など、あたかもISがあらゆることを計算に入れて用意周到にテロを実行したかのように報道しています。実はこうしてマスコミや評論家が事件の後でいろいろ意味付けすることによって、ISの存在が過剰に大きな組織で成り立っているように位置付けられてしまっています。マスコミのこうした評価は、それこそISの思う壺なのです。マスコミが勝手にISを実態以上の存在として作り上げています。ISはマスコミが論評するほどあれこれ影響を想定して実行したわけではありません。フランスの爆撃に対する報復テロを計画し実行しただけです。結果として様々な影響が出ただけなのです。
「テロの世紀」と言われる21世紀の根本問題は、西欧諸国の政治手法の行き詰まりから生じてくるものです。西欧諸国は、国際社会に、キリスト教世界観に基づく思想や政治制度を押し付けてきました。それが非西欧社会の反発を買い、政治的な相克・軋轢を生む原因となっています。ことに地理的に接するイスラム世界とは、1100年代の十字軍の歴史から今日に至るまで、宗教観、世界観の違いから衝突が起き、報復の連鎖が続いています。現代では武力に劣るイスラム世界が報復のためにテロを多用する事態となっているのです。
軍事的な手段では解決が見出せなくなっている今、高潔な精神を持つ政治家の出現が待たれています。現時点で世界を見渡した時、紛争の仲介を担うことのできる唯一の国は日本ではないかと思います。G20では、安倍総理が次のような対策を提起していました。「テロの根底にある暴力的過激主義への対策や、過激主義を生み出さない社会の構築といった複眼的な取り組みも重要だ」「難民の流出を防ぐには、すべての人々が安心して暮らせる民生の安定が基本だ。将来、祖国に戻って復興や発展を担える人材を育てることも重要だ」。これは注目すべき発言です。日本が国際紛争解決の道筋をつけられることを示唆したものと受け止めるべきだと思います。ロシア旅客機テロやフランス多発テロの衝撃の中で、憎しみを増幅させ世界が報復への道を進もうとするのか、あるいは、多くの人々が憎悪の応酬に終止符を打とうと願いその思いを発信しようとするのか。世界は今、人類の存続をかけた分岐点に差し掛かっているように感じます。安倍総理には国際社会に向け、世界の政治家や宗教指導者による真実の対話実現の呼びかけをしていただきたいと切に念願します。
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