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2015-11-21 00:00
平和主義者の幻想を危ぶむ
熊谷 直
軍事評論家
未だに「平和!」「平和!」と叫んでいれば平和がくるという妄想から逃れられない日本人が多数いることを、残念に思っている。たまたま訪れた外国で温かくもてなされた経験などから、そのように思ってしまうのだろうか。私は、防大出の航空自衛官であった若い時期の経験と、その後の35年にわたる防空現場での体験や、軍事史の研究者・教官としての人生から、外国人には表と裏があることを身に滲みて感じてきた。付き合った相手にアメリカの軍人が多かったのは、自然の成り行きであったが、共産圏の軍人と交流することもあった。名刺交換をして接近してくる彼らの目的には情報を得ようとするものが多かった。私的には、定年退官後も含めて、標準的な外国旅行をしたり、武道や尺八を外国人に教えたこともあったりしたので、軍人ではない民間人との交流も少なくなかった。それどころか、在米研究者の次女の結婚相手は現地公務員のアメリカ白人であり、アメリカ人については比較的理解が深いほうだと思っている。
しかし、そのような私は、戦病死した父が陸軍将校であったためもあって、本質的には親米ではない。高校の頃、英語のテストでJAPANの文字を使ったことはなかった。NIPPONと記していたのである。しかし自衛官としての仕事の上では、やむをえずJAPANを使ってきた。山口県立高校時代の比較的成績が良かった仲間たちは、英語に熱心でありながら、当時流行の左翼思想にかぶれていた。かといって、ロシア語や中国語を学んだ者はいない。防大で第二外国語に中国語を選択した私は、今でも英語と中国語の勉強は欠かさない。情報を得るためには外国の言葉を知ることが大切だからである。防空のためにも、領空侵犯をするソ連機に警告を与えるためにも、最小限のロシア語の用語を覚える必要はあった。防空のための24時間勤務で体を壊したことも事実である。
そのような努力をして、防空現場の自衛官は、日本が侵略されないように頑張ってきている。「平和!」「平和!」「戦争反対!」」と叫んでいるだけで、他国の侵略を受けないのであれば、これほど楽なことはない。現実の平和は、自衛官に限らず、出入国管理官、警察官その他の保安関係者が忠実にその任務を果たしているおかげで維持されているのである。リーダーに動員されるまま、「平和!」「平和!」と叫んでいる一般のデモ参加者たちは、他人の宣伝に乗せられて、何となく流行の思想に乗り、自分の思想を持っていないのではないか。
外国人との付き合いは、個人間のそれと、国家の間のそれとでは、同じではない。親日的に見えるアメリカ人でさえ、国としては日本人を警戒し、その行動を見張っている。安倍首相の安保行動も、すべてがアメリカに受け入れられているわけではない。「中国が尖閣占領の動きを見せれば、アメリカは無条件で日本側につく」と述べているわけでもない。アメリカはアメリカの国益で動くのであり、そのことは日米安保条約の解釈上もはっきりしている。もちろん同じことは、中国人の対日行動についても言える。日本人は、日本共同社会の一員としてどう行動すべきかを常に頭に置いておくべきなのである。
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