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2015-11-24 00:00
ASEAN、米中の「草刈り場」懸念
鍋嶋 敬三
評論家
アジア太平洋経済協力会議(APEC)、東南アジア諸国連合(ASEAN)、東アジアサミット(EAS)と11月下旬、相次いだ一連の首脳外交は安全保障、経済の両面で米国対中国の主導権争いがし烈だった。最大の焦点・南シナ海問題では、中国の埋め立てによる人工島の軍事拠点化に対して、米国がミサイル駆逐艦の航行やB52戦略爆撃機の飛行で中国をけん制、緊張が高まった。10月に大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)の拡大を日米が目指せば、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)に加えて、100億ドルの新規インフラ借款をASEAN向けに提供。オバマ米大統領は2016年にASEAN全首脳を米国に招く取り込み作戦に出た。この地域は米中両国の「草刈り場」の様相を呈してきた。
2015年末に経済共同体(AEC)を発足させるASEANは、人口6億2500万人、国内総生産(GDP)2兆6000億ドルと世界7位の経済圏になるが、大国の対立に翻弄(ほんろう)されては、地域機構としての主体性が問われる。ASEANと米国の首脳会談の共同声明(11月21日)は、両者の関係を「戦略的パートナーシップ」に格上げした。「埋め立て、軍事化の中止」を呼び掛け、「アジア太平洋の平和と安定にともに重要な役割を果たす」と明記した。南シナ海での航行や飛行の自由をうたったのはもちろんである。オバマ大統領にとって心強かったのは、その2日前の日米首脳会談で、安倍晋三首相と南シナ海やTPPで「連携強化」を確認したことである。安倍首相は一連の会議で、海洋問題では「国際法に基づいた行動」を主張し、「一方的な現状変更は認めない」という強い姿勢を各国首脳に訴えた。これはオバマ氏に対する最大の援軍になった。
ASEANの特徴は多様性である。それ故に紛争や対立は絶えず、「東洋のバルカン」と呼ばれたこともある。フィリピンやベトナムは領土紛争で中国と厳しく対決するが、経済協力で縛られるカンボジアやミャンマーは沈黙を決め込む。ASEAN関連会議の議長国であるマレーシアは、南シナ海で中国との紛争当事国だが、中国海軍に対してスプラトリー諸島に近いボルネオ島のコタキナバルの港湾の使用許可を与えたことが、会議中に明るみに出た。マレーシア海軍の前司令官は米軍にも寄港を認めているとして、「中国との防衛協力が問題解決に役立つ」との見解を示した。米中の板挟みになった国の悩みを反映しているようだ。
ASEANを動かすのは安保だけではない。フィリピン、タイ、インドネシアがTPP参加に意欲を明らかにし、拡大への機運を盛り上げた。米国抜きの東アジア地域包括経済連携(RCEP)交渉を推進したい中国にとっては打撃になる。安倍首相は会議閉幕後の記者会見で「TPP拡大に注力する」姿勢を強調した。中国のAIIBに対抗して、インフラ投資で円借款の条件緩和を打ち出し、経済面でもオバマ政権をバックアップしている。ASEANは11月22日、共同体創設のクアラルンプール宣言を発表、2025年までの行程表を採択した。しかし、その多様性の故に情勢が複雑化し、大国の狭間でASEANの悩みは深い。シンガポールのリー首相は「南シナ海がASEANの統一と実効性の試金石になってきた」と言う。インドネシアのジョコ大統領は「ASEANが統一され、中心とならなければ、東南アジアは大国の対立の場となる」と警戒心を露わにした。ASEANの将来を保証するのは共同体としての政治的意思の統一である。
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