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2015-11-25 00:00
(連載1)英中「黄金時代」にどう対処すべきか?
河村 洋
外交評論家
去る10月にイギリスは中国の習近平国家主席を迎えて両国の「黄金時代」の幕開けを称えた。他方で人権活動家達は中国によるチベット抑圧を非難し、王室も習氏に皮肉を込めた対応をした。しかし政策的観点から言えば、最も重大な懸念はブラッドウェルとヒンクリー・ポイントでの原子力発電所の建設である。英中原子力合意に対する我々の対応を模索する前に、イギリスの外交および内政政策の背景を述べたい。まずイギリスの外交政策上のバランス変更を理解する必要がある。現在、イギリスのメディアではデービッド・キャメロン首相がEU加盟の是非を問う国民投票を示唆する状況から、Brexit(Britain+Exit)すなわち脱EUが取り上げられている。イギリスはEU域内の移民問題に不満を抱え、新たな市場もユーロ圏ではなく特にアジアを中心とした新興諸国に求めている。これはイギリスが英連邦諸国と伝統的な関係があり、しかもその中でもインド、マレーシア、シンガポール、南アフリカ、ナイジェリアといった国々は新興経済諸国の代表的存在である。アメリカがアジアへの「転進」(pivot)あるいは「リバランス」を語る一方で、イギリスはアジアの最優先化(reprioritisation) に取りかかっている。
これがイギリスの変化であり、それはキャメロン首相が2013年2月のインド訪問の際に大規模な財界代表団を引き連れたセールスマン外交を展開したことに典型的に表れている。今年の7月にインドのナレンドラ・モディ首相が訪英した際には、2002年のグジャラート州暴動時に州首相としてイスラム教徒への対応が不評をかったことには触れず、ひたすら自国への投資を求めた。人権活動家達はキャメロン首相を批判するであろうが、外交政策はすでに習主席のロンドン訪問以前に「市場志向」であり、そうした外交方針はイギリスの歴史的本能に基づいたものである。
中国との商業上の合意は物議を醸しているが、それに評価を下すにはイギリスが特にヨーロッパとアジアの間で自国の立場をどう見ているかを理解する必要がある。今年の10月に英国王立国際問題研究所は『イギリスとヨーロッパと世界』(“Britain, Europe and the World: Rethinking the UK’s Circles of Influence”)と題する報告書を発行し、イギリス外交で3つの課題を挙げている。それはまずグローバル化による経済競争の激化、次にロシアや中国との地政学的競合から中東と全世界で台頭するイスラム過激派といった脅威の多様化、そして国連、国際金融機関、NATO、EUといった国際機関が時代に合わなくなったことによる構造改革である。これらの課題に鑑みて、その報告書ではイギリスは米中のパワー・バランスの動向に適応してゆかねばならないと記している。そこでイギリスがどのように適応しているのかを見てゆく必要がある。
キャメロン政権はブレトン・ウッズ体制が今世紀のパワー・バランスの変化に応じて更新される必要があると見ているので、イギリスは中国に人民元の国際化について助言を行なっている。非常に重要なことにBRICおよびMINT(メキシコ、インドネシア、ナイジェリア、トルコ)諸国へのイギリスの輸出は伸び悩んでいるが、その中で中国向けだけは2011年から2014年にかけて2倍に増加している。東シナ海および南シナ海での米中衝突は安全保障上の懸念材料ではあるが、王立国際問題研究所のロビン・ニブレット所長は10月19日の公開討論で「中国をめぐるイギリスの国益と能力はアメリカのそれとは違う」と述べている。ニブレット氏の議論の焦点はイギリスの影響力をいかに維持してゆくかである。戦後のイギリス外交では、自国をアメリカ、ヨーロッパ、そしてその他の世界という3つの円のハブだと位置づけてきた。この内、その他の世界を代表するのが英連邦、中東、中国、日本といった地域や国々である。しかしニブレット氏は「大西洋の架け橋というイギリスの役割は弱まっており、実際にアメリカはロシア封じ込めにはバルト海諸国を注視しているばかりか、イギリス自身もユーロ圏に入っていない」と言う。ニブレット氏はさらに「国連、ブレトン・ウッズ体制の国際金融機関、そしてG7といった国際機関の影響力低下は、そうした機関で重要な地位を占めるイギリス自身の影響力に多大な制約となっている」とも評している。よってニブレット氏は「イギリスは中国との関係強化によって外交政策上の優先事項を再考し、国際機関を再建する必要がある」と主張している。(つづく)
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