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2015-11-26 00:00
(連載2)英中「黄金時代」にどう対処すべきか?
河村 洋
外交評論家
ニブレット氏の見解は深い分析と冷静なリアリズムに基づいているが、それでも私はイギリスの過剰な対中関与には異を唱えたい。歴史的に見て、イギリスは台頭する大国を受け入れて世界での影響力を維持しようとしてきた。ビクトリア朝時代にはソールズベリー侯爵が米独両国との良好な関係に努めた。しかしのちにドイツと敵対するようになったので、そうした政策は続かなかった。こうした観点から、我々は英中「黄金時代」の永続には疑問を呈さねばならない。イギリスのアジア・インフラ投資銀行加盟には、王立国際問題研究所の論文とニブレット氏の発言に鑑みてある程度の合理性はあるだろう。しかし、原子力合意のリスクと安全保障上の意味合いは、AIIB加盟とは比較にならないほど重大である。
また安全保障と環境の懸念を乗り越えて原子力合意にいたった、キャメロン政権内でのジョージ・オズボーン財務相の役割にも注意するべきである。オズボーン氏は今年の9月に貿易拡大のために中国を訪問した際に、人権問題にあまり触れなかったことを感謝された。オズボーン氏がイギリスを中国主導のAIIBに加盟させた張本人であることを忘れてはならない。元MI6作戦情報局長のナイジェル・インクスター氏は「中国巨大市場への参入機会を逃すまい」とばかり考えるオズボーン財務相の見解に警告を発している。他方でオズボーン氏は二国間貿易の拡大とともに中国からのインフラ投資も求めている。ウエストミンスターでの党利党略から、保守党の議員達は不本意ながらオズボーン・ドクトリンに引き込まれている。このドクトリンの根本的な考え方は「イギリスが国際舞台で重要な地位を保ち続けるには急成長の中国と強い関係を築くことが絶対に必要だ」というものである。まさにこうした理由から、オズボーン財務相はイギリスを西側で中国の最友好国にしようとしている。
オズボーン氏とインクスター氏の亀裂はキャメロン政権の政策的優先事項を反映しているかも知れない。キャメロン首相がイギリスの貿易と投資の拡大に熱心な一方で、予算的合理性のために国防を犠牲にしたことは、スコットランド海空域へのロシア侵入に見られる通りである。レイモンド・オディアーノ米陸軍大将はこれに重大な懸念を表明し、3月のウエストミンスターは大騒ぎとなった。キャメロン首相がNATOの設定したGDP2%ラインを満たしているとしているイギリスの国防費は、実際には縮小し続けている。中国との原子力合意は脱EUの動きを反映する一方で、背後でのフランスの関与も見逃せない。英中合意を前に、今年の7月にはEDF(フランス電力会社)とCGN(中国広核集団)が核燃料の加工および再処理の施設建設に向けた協力強化の合意に調印した。中国によるブラッドウェルとヒンクリー・ポイントでの原子力発電所建設ではEDFが一役かっている。原子力エネルギーは国家安全保障のうえでも細心の注意を払うべき問題なのだが、中国の公共企業は一般に思われているよりも早くからヨーロッパに入り込んでいる。
これらの問題に取り組むに当たって、我々はイギリス国民の間で環境や安全保障といった問題意識を共有する人々に自らの見解を訴えかけるべきである。特に原理力の安全性は福島原発事故を機に世界的な関心事となっている。中国は自分達が建設する原子力発電所を西側への産業ショーウィンドーにするつもりだが、イギリスの環境活動家や現地住民は中国企業が西側の基準を遵守してブラッドウェル河口地域の生態系を守るかどうかを憂慮している。(つづく)
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