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2015-12-06 00:00
世界は欧米中心の歴史認識の転換期にある
松井 啓
大学講師、元大使
ヨーロッパではイギリスに端を発した産業革命により富を蓄積し、英仏等帝国主義諸国は中近東、アフリカ、アジアに恣意的な国境線を引き、植民地から利益を搾取した。アフリカからは大量の青壮年層を奴隷として南米及び北米に売り込み、宗主国の経済発展のために酷使した。特に米国では奴隷は解放され「平等」であるとの建前にもかかわらず、人種差別が未だに潜在しており、軋轢と不満が暴発し、殺傷事件を起こしている。米国自体が白人による先住民の駆逐によって形成され、アフリカからの奴隷の輸入と移民によりその基礎を築いた国であるが、競争の自由と民主主義を世界にあまねく行き渡らせるというアメリカの夢を追求し、民主主義の危機を救うべく介入した朝鮮半島では未だに南北が38度線で対峙している。ベトナムではフランスが撤退した後米国が共産主義によるドミノ現象を防ぐべく介入したが、北ベトナムに勝利することはできなかった。アフガニスタンではソ連が10年間てこずって撤退した後、米国が介入したが、20年以上経た現在も政権が安定する見通しは立っていない。
2011年チュニジアから始まった中東地域での「アラブの春」は既存政権を崩壊させたが、いまだ安定政権は実現せず、イスラム過激派を勢いづける結果となり、地域全体が不安定化している。シリアのアサド政権を倒そうとした米国の試みは「イスラム国(IS)」の台頭を招き、イラクと共に地域全体が液状化している。他方、12月13日のパリ同時多発テロの犯人は、インターネットを駆使した巧妙なプロパガンダによりイスラム過激思想に感化されたものとはいえ、事件はほぼヨーロッパ内の自家製であり、特にフランスでは旧植民地からの移民が安い労働力として利用され、不当に差別されているとの不満や絶望感が移民の3世、4世に強いといわれる。米国でも黒人や移民に対する差別による怨念が癌細胞のように鬱積し、イスラム過激派に心情的に呼応する土壌があると言えよう。
このようなテロを抑え込む特効薬はない。ISを空爆しても、民主化が実現するものでもない。民主化には時差があり、国家にはいろいろな発展段階がある。中近東、アフリカ、アジアの識字率が低い社会に一人一票の欧米型民主主義を性急に持ち込んでも、すぐには安定した政権は実現しない。更に、パリで開催中の地球温暖化防止の国際会議COP21では、温暖化は先進諸国が未開発諸国から資源や労働力を安く収奪して、経済発展を先んじた結果であるとして、先進国にその責任を求め、途上国支援を要請している。要するに植民地主義の負の遺産の清算を迫っているのである。
我々は人類全体の共通益、世界益の観点から、富の格差縮小、分配の是正、貧困の縮小、環境保全のための国際協力を地道に進めていくしか方法はないであろう。その際にはこれまでの欧米中心の歴史認識を修正して、開発途上国の積年の被害者、被抑圧者としての立場にも配慮した、人類全体の歴史認識を再構築していく必要がある。日本は軍事面での関与ではなく、民生の安定のための協力に努力する一方、来年からは安保理理事国となる国連において会議や紛争での当事諸国間の対話の促進を促すとともに、アジアで唯一のメンバーであるG7の議長国として途上国問題、グローバル課題解決のイニシアチブをとっていくべきである。
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