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2015-12-09 00:00
日本の大学、最大の弱点は国際競争力
鍋嶋 敬三
評論家
東京大学がアジアのトップ大学から転落したことが注目を集めた。英国のタイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)が9月30日に発表した世界大学ランキングで23位から43位に大きく後退、シンガポール国立大学(26位)にトップの座を奪われた。京都大学も59位から88位に。100位以内に入ったアジアの大学はシンガポール、中国、香港が各2校、韓国のソウル大学は85位で京都大の上に付けた。世界ランクの1位から10位までは米国6校、英国3校、スイス1校とすべて米欧である。安倍晋三内閣は「日本再興戦略」で10年間にトップ100校に10校以上入る目標を掲げた。政府が決定したスーパーグローバル大学の「トップ型」13校はこの目標を達成するための支援事業とされる。しかし、THEのランキングで前年は150位までに東京工業大学、大阪大学、東北大学を含め5校が入っていたが、今年は前記2校のみになった。
日本の上記5校の研究水準がアジアの大学の中でも低いというのは理解しがたい。日本の大学のランクが下なのは国際競争力の評価が低いためである。英語で高度の研究、指導ができる教員の割合はトップ級の大学でも小さい。THEがランク付けのために使った「論文引用」「研究」「国際」など6つの指標のグラフを比較すると、2位の英オックスフォード大学がほぼ正六角形になっている(参院事務局編集「立法と調査」No.357)。THEのランキングはオックスフォードがモデル(標準)になった評価の指標に基づいたものと言える。「国際」の指標を比較すると、オックスフォード大に対し、東京大、京都大は3分の1程度ととかなり低い。六角形のグラフの中で「国際」部分だけ大きくへこんだいびつな形だ。「国際」の指標は外国人学生比率、外国人教員比率、国際共著論文比率から算出される(参院同)。
米国のトップ5大学の教授の平均年収が20万ドル(2400万円)に対し、日本の上位の国立大学は1000万円。日本並みの待遇では一流の学者は日本に来ない。安倍内閣は大学の国際競争力強化のため、2020年を目途に日本人海外留学生を倍増し、外国からの留学生も2倍以上の30万人(現状は13万人余)を受け入れる計画を公表している。しかし、現状は目標にはほど遠い。米国政府と密接な関係のある国際教育研究所(IIE)が11月に公表した2014/2015学年度の留学報告書によると、米国の大学などに留学した外国人は前年比10%増の約97万5000人で過去最高を記録した。1位は中国からでついに30万人の大台を突破(30万4000人)、2位インドは30%増の13万3000人、3位が韓国でやや減ったものの6万3000人。中印韓3カ国だけで全体の51%と半数を占めた。中印韓の米国内の存在感は将来にわたってますます大きくなるだろう。毎年数を減らしている日本は8位で1万9000人。このままでは2桁成長のベトナム、メキシコに抜かれ10位以下に転落は必至だ。
米国人学生の海外留学もリーマンショック(2008年)以来、最高の30万人を記録した。米国の留学政策は大学の国際化、米国にもたらす経済効果(年間300億ドル)だけでなく、海外の将来の指導者を引きつけるという遠大な目的がある。国務省のライアン次官補(教育、文化担当)は留学(受け入れと派遣)は「米国と諸外国との結びつきを強める」ものだと述べている。日本ではこのような外交戦略上の視点が欠けている。グローバルに展開する外交、国際ビジネス、学界などあらゆる分野で人脈(人間同士のコネクション)が物事を円滑に進める有力な武器になる。その基礎は留学によって培われることが多い。ノーベル賞といえども科学分野で「一匹狼」では受賞は難しく、国際共同研究や共同論文の発表の積み重ねが受賞への道を開いてきた。留学の成果は20-30年後に開花する。それは近代国家を目指した幕末から明治時代の日本の先達が示したように、長期的展望の上に立った日本の貴重な国家資源になるのである。
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