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2015-12-21 00:00
(連載1)混迷を深めるパリ同時多発テロ後の世界
河村 洋
外交評論家
パリ同時多発テロによって、国際社会はテロとの戦いがもはやアメリカだけの戦争にとどまらないことを自覚した。これは9・11同時多発テロの時に気づいておくべきだったことであり、国際社会はイラクとアフガニスタンにおける戦争について「アメリカ主導の多国籍軍による国際世論軽視はけしからん」などと批判などしているべきではなかったはずである。特にこの事件はヨーロッパの安全保障と全世界での対テロ連合に影響を与えている。
ヨーロッパの安全保障に関して言えば、多くの人々が犠牲者への哀悼と連帯を示したものの、テロ攻撃への反応は分かれている。フランスは9・11後のアメリカと同様に即座に対応した。イギリスも同時多発テロを深刻にとらえてイラクで行なっているISISへの空爆をシリアにも拡大することを決定した。そうした中で中小国はかつての日本のようにISISとの戦いへの関与を躊躇し、イスラム教徒の難民を排除している。11月17日にフランスのジャン=イブ・ル・ドリアン国防相がEU加盟国に負担分担を求めた際に、他の加盟国の関与は文言の上にとどまった。イギリスだけが本気で応じてきた。キャメロン政権は23日にキプロスのアクロティリ英空軍基地をフランスに提供した。
フランス(オランド政権)がかつてのアメリカ(ブッシュ政権)のように行動していることは、イラク戦争当時にフランスがこの戦争に激しく反対したことを考えれば、何とも皮肉である。今や保安官の役割を担うのはフランスであり、消極的で無責任なバーマスターとして振る舞うヨーロッパの友好国に不満を抱えるようになっている。欧州共同防衛への道がとても遠いものであることは、イギリスの脱EU運動にも見られる通りであり、「英仏協商」の再来はヨーロッパの安全保障が国民国家志向になっていることを示している。ヨーロッパ内での分裂は各国の国益と能力の違いを反映している。その国の軍事力が強力であるほど、テロの脅威をより深刻に受け止める。究極的には軍事介入によって彼らの拠点を一掃して、油田や人身売買などのISISの収入源を絶つ必要がある。にもかかわらず軍事的に弱小な国々は、戦争による死傷者、国防費増大、反戦運動の圧力といったリスクを避ける傾向がある。こうした国々は軍事大国に負担を負わせたがっている。シリアでの戦争が激化し長期化するようなら、ヨーロッパ内部の分裂はさらに大きくなるだろう。
全世界レベルでは強固な反ISIS前線はない。イラクとアフガニスタンでのテロとの戦いから、シリアの泥沼化が懸念されるので、フランスのオランド大統領がパリ同時多発テロからほどない11月26日にモスクワでロシアのプーチン大統領と会見した際には、ロシアやイランをも含めた世界的な連合が模索された。しかしロシアもイランも重要な戦略目的を西側と共有しているわけではない。両国がISISを相手に戦うのはアサド政権あるいは別の傀儡政権を支援するためであって、両国とも過激派の根拠地一掃などには関心はない。両国とも域内で西側の影響力を弱め、不安定化を利用して自分達の勢力拡大を狙っている。アメリカン・エンタープライズ研究所にある重大脅威プロジェクトのフレデリック・ケーガン氏とキンバリー・ケーガン氏は「アサド政権の存在で行き場を失ったシリア国民がテロ集団に流れ込み、ISISを過激化させている」と論評している。(つづく)
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