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2015-12-24 00:00
中国の脅威でアジアに軍拡渦巻く
鍋嶋 敬三
評論家
アジアでは、急速な軍事力増強を背景にした中国の一方的な現状変更の動きに対して、各国が軍備拡充を急ぎ、二国間、多国間の防衛協力の合従連衡が渦巻いている。中国が態度を改めない限り、北東アジアから南シナ海周辺の東南アジア、さらにインド洋の南アジアに至るまで地域の不安定化は一層進む。11月の東アジア首脳会議(EAS)議長声明は南シナ海問題で「複数の首脳が深刻な懸念」を表明した。中国の反対にもかかわらず、日米両国の強い主張を反映したものだ。しかし、中国はその1ヶ月後に同海域で軍事演習を実施。潜水艦、早期警戒機、戦闘機を含む統合作戦演習が主目的と伝えられる。
アジア太平洋地域の防衛協力がこの秋、急速に進んだ。カギを握る米国は南シナ海で中国と厳しく対立するフィリピン、ベトナムとの協力関係を強めているが、12月にはシンガポール、インドと相次いで国防相会談を開き、防衛協力の強化で合意した。フィリピンを訪問したオバマ米大統領は地域の海洋安全保障の支援のため、2億5900万ドル(310億円)の拠出を発表した。インドには国産空母建造の技術支援など安全保障協力の強化で一致。シンガポールとは25年の歴史がある防衛協力の深化と拡大を目指す新たな防衛協力協定に署名した。同時に最新鋭のP8ポセイドン対潜哨戒機を3ヶ月に1度程度、シンガポールに配備することも合意した。同国には既に高速の沿海域戦闘艦(LCS)が配備されているが、ともに南シナ海海域での哨戒、警備活動で中国をけん制する狙いだ。両国の共同声明でP8の配備を歓迎、各国軍隊間の「相互運用性(interoperability)を高める」ことをうたった。ここが地域安保推進の上で重要な点である。
対中外交に慎重な華人国家のシンガポールが対米軍事協力の強化に踏み切ったことが地域に与える影響は大きい。1ヶ月前に習国家主席が同国を公式訪問したばかりで、中国の反発は強い。中国共産党系のグローバル・タイムズは「米軍への支援が地域の緊張を高める」とシンガポールやフィリピンを名指しで批判した。フィリピンのアキノ大統領は軍近代化15年計画を打ち出した。軍備といえば40年以上前のベトナム戦争当時のポンコツ装備で「丸裸」だ。民族主義の高揚で米軍を追い出した(1992年)後、南シナ海のミスチーフ礁(1994年)、スカーボロ礁(2012年)を中国に奪われたのは軍事的無防備のためだ。フィリピンは韓国からジェット戦闘機、米国からフリゲート艦、日本からはP3対潜哨戒機を調達するが、自衛も一から始めなければならないありさまだ。インドはソ連時代以来の「長年の友」としてロシアと防衛協力を続けており、12月23日訪露したモディ首相は原子力潜水艦の賃貸契約、ヘリコプター共同生産、原子力発電所6基の建設など新たな協力を強化する。安倍晋三首相との会談(12月12日)では防衛装備品・技術移転の協定や軍事秘密保護協定に署名するなど安全保障協力を強化した。またインドと日本、米国、豪州を結ぶ3カ国協力の促進にも合意した。
ベトナムはロシアから最新鋭潜水艦6隻を購入、Ⅰ番艦が南シナ海の哨戒を開始した。これに対して中国は、親中派のカンボジアと、軍事クーデターで米国から制裁を受け中国に急接近するタイを取り込む戦略だ。タイとカンボジアは12月18日の首脳会談で、両国を結ぶ鉄道の運行で合意、その直後にタイの鉄道建設に中国が協力する起工式が行われたのは、偶然ではなさそうである。中国がこの両国と経済的、軍事的な結びつきを強めれば、「ベトナム封じ込め」の効果は大きい。オバマ大統領が選んだ今年の10大ニュースに外交の柱であるはずの「アジア・リバランス(再均衡)」が入っていなかった。イスラム国(IS)やイランの核問題など中東にかかりっきりだったことを物語る。年明けに大統領選挙戦に突入、「レームダック化」することは必至のオバマ氏がアジア太平洋で主導権を発揮できるのか、アジアの不安はそこにある。
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