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2016-01-06 00:00
(連載1)世界的混乱の原因は、これまでの対ロシア政策の失敗
河村 洋
外交評論家
新年にあたって、「ソ連崩壊後のロシア政策に我々が失敗したことが、現在の世界不安定化の第一原因なのかどうか」という問題提起をしてみたい。そうであるならば、その結末はどうなったのか?我々は共産主義の終焉によって「歴史の終わり」がもたらされ、それによって世界から紛争もなくなると信じ込んでいた。実際にはロシアは混乱に陥り、世界はその後に混乱を深めている。私の見解では、国家間の力のバランスの変化よりも、西側の価値観への幻滅こそが今日の世界を語るうえで重要だ、と考えている。
ソ連崩壊の直後、我々は共産主義の専制政治から解放された国々には民主主義と自由市場体制が広まることに何の疑いも抱いていなかった。しかし、我ら冷戦の勝者が抱いた期待はあまりに単純素朴であり、ロシアおよび旧ソ連共和国の社会経済的な移行を支援するために充分な関与を行なわなかった。これは第二次世界大戦の勝者がとった行動とは著しい対照をなす。連合国は日本とドイツの軍備解体と民主化に邁進し、旧敵国の安定と繁栄に多大な資材とマンパワーを投入した。こうした取り組みの成果は「過剰」な成功となり、復興した日本と西ドイツはアメリカとイギリスにとって経済的に手強い競争相手となった。しかし、私はこれを当時のアメリカの「自然な衰退」とは見なさない。むしろ、それはロバート・ケーガン氏の最新刊の題名のように「アメリカが作り上げた素晴らしき今の世界」とみなすべきもので、実際に日独両国ともG7に名を連ね、西側同盟に不可欠なステークホルダーとなった。この成功はアメリカ外交政策の金字塔である。
アメリカ、そしてイギリスの排外的孤立主義達は、自国が経済的苦境にある時には「旧敵国が再興してきた」と恐怖心を煽り立てたが、そうした見方は全くの間違いであった。アメリカの悪名高き大統領候補ドナルド・トランプ氏やイギリスのナイジェル・ファラージ独立党党首の例にも見られるように、そうした考え方に魅了されるような人々は、その国の中でも嗜好、見識、道徳、そして知性のいずれにおいても最も貧困な部類の有権者層である。その国で最良の人材(crème de la crème)なら、国際主義者であることが当然であり、自分達の国が世界の中で果たすべき役割への問題意識には高いものがある。
冷戦の勝者達がロシアに対してそのように寛大な支援もしなければ、かつての敵国の軍備解体も行なわなかったことは遺憾である。勝者達はロシア国民が社会経済的変化に苦しみもがく姿を横目に、ただ資本主義についてご高説を垂れるばかりであった。ロシアの新しい資本主義はカルビン主義の精神を欠いていて、経済格差を拡大するだけだった。オリガルヒは享楽的に振る舞い、「稼ぐが勝ち」の資本主義を当然視していた。これではロシア人が西側の資本主義と自由に幻滅しても何ら不思議ではない。実際のところ西側の資本家は必ずしも公衆に対するロールモデルにはならず、享楽的で贅沢な生活を送ることも稀ではない。しかし彼らはビジネスとサービスにイノベーションをもたらしている。他方でロシアのオリガルヒは、ソ連時代の古い産業の残骸から搾り上げた利益で自分達の富を蓄積しただけである。ロシアの資本主義は国際舞台で競争力のある産業を生み出さなかった。石油や天然ガスといったエネルギー資源の輸出に依存しているということは、ロシアがまだ「離陸期」さえむかえていないばかりか、経済的には第三世界にとどまっていることを意味する。ロシアは世界的にも優れた科学者と技術者に恵まれているが、その多くはソ連時代から続く軍事産業に職を得ている。これら航空宇宙産業からは国際的に競争力のある民間機は製造されていない。(つづく)
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