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2016-01-07 00:00
(連載2)「ロシアの地方での日露首脳会談」が意味するもの
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
プーチンはいま日本と領土問題を交渉するつもりもないし、またこの問題を解決する力もない。彼の国内での支持率は、2011年、12年には落ち込んでいたが、国内経済が悪化しているにもかかわらず、2014年3月の「クリミア併合」の後急上昇した。それは国民から「失った領土を取り戻した」強い大統領と見られたからである。シリアへの空爆を始めると、支持率はさらに上昇したが、これも、ロシアの国際的地位を高める強い指導者として、ロシア国民の大国主義的なナショナリズムを大いに満足させたからである。領土問題で彼はいま日本に譲歩できる状態にないということは、これ以上説明しなくてもご理解頂けるだろう。
平和条約問題解決に向けて、つまり領土問題解決に向けて首脳会談をすると安倍首相は公言している。この状況でプーチンが、解決に向けての具体的提案を何も準備しないで訪日し、経済協力の話だけを持ち出すのであれば、日本の対露世論はかえって硬化する。経済面でも、今は両国間で目立った進展は期待できない。つまりプーチンの訪日は、ほとんど成果は期待できないし、「失敗」ということにさえなってしまう。そこでロシア側は一計を案じて、ロシアの地方都市での首脳会談を提案したのだ。ロシア国内で会うのであれば、「安倍が会いたいと言うので会った」という説明が可能で、格段の成果はなくても構わない。ただ、それだけでは日本に対してあまりに侮辱的になってしまうので、プーチンは一定の対日配慮もしている。それは、「地方で会う」という提案だ。これには2つの意味がある。まずプーチン自身が日本に近い極東に出向く、ということである。第2は「プーチンの極東訪問の際に日本の首相とも会う」とすれば、非公式会談の性格を持たせることも可能で、日本側が受け入れ易くなる。
結局、プーチンの「安倍首相とはロシアの地方で会いたい」との言が示唆していることは、首脳会談を行っても、平和条約問題を始めとして特段の成果は期待するな、ということを意味する。さらに前述のように、日露の経済関係の面でも、ロシア経済が落ち込んでいる今は目立った進展は望めない。この状況で、ロシアの言うがまま目立った成果も期待できずに、日本から首相がプーチンに会いに行く必要があるのだろうか。さらに、ウクライナ問題に加えて、シリア問題、トルコ問題等で欧米とロシアの関係が一層複雑になっているとき、日本が国際政治に関してロシア側に何か提案できることがあるのだろうか。
筆者は、安倍外交を高く評価している。歴代の首相の中でも格段に積極的な外交姿勢を示しており、また複雑な関係にある近隣諸国にも機微な対応している。また、日本は長期的、戦略的には、ロシアと安定した良好な関係を構築する必要があると考えており、この面でも安倍外交と基本的に同じ考えを有する。しかし、2016年の参議院選挙前に米国の対日不信を強めてまで首相が変則的な訪露をして、ほとんど目立った成果がないとなれば、安倍政権にとって、そして総じて日本政府の権威という観点から見ても、かえってマイナスになるのではないか、という懸念を抱いている。(おわり)
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