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2016-01-07 00:00
(連載2)世界的混乱の原因は、これまでの対ロシア政策の失敗
河村 洋
外交評論家
ソ連崩壊が起きたタイミングは最悪であった。当時はネオリベラル一派が何の疑いもなく信奉する自由放任の経済的グローバル化という考え方が世界を席巻していたが、社会主義的思考を抜け出せない人々にとってそのような社会は災難以外の何物でもなかったからである。我々はロシア人に競争本位の資本主義を押し付けるのではなく、北欧型の福祉国家を教えるべきだったのかもしれない。それなら、共産主義からのソフトランディングになったかもしれない。我々に友好的で民主的な「巨大なスウェーデン」になったかもしれなかった。ロシアでのネオリベラル資本主義の失敗によって、「バンクーバーからウラジオストクまで」を標榜した「欧州共通の家」という夢は完全に崩壊した。ロシアは「新たな日本やドイツ」にも「巨大なスウェーデン」にもなれなかった。歴史は終焉せず再び始まったのである。
こうした事態によって世界の安全保障に甚大な悪影響が及んでいる。西側の「資本主義」と「自由」という理念はロシアのみならずその他の国々でも色褪せた。そうした国々は西側中心の世界秩序と価値観に異を唱えるようになった。1990年代には東南アジア諸国が「アジアの価値観」を掲げ、人権侵害に関する西側の批判を跳ねつけた。ソ連崩壊後のロシア政策の失敗がもたらす波及効果は、このようにして世界各地に広がっている。「中国の台頭」がもたらす脅威も、我々がロシアの友好的な民主国家への変遷に成功していれば、もっと小さなものだったかも知れない。我々は北京共産党の支配に対して立ち上がる中国の市民を支援するうえで圧倒的に有利な立場であったろうし、地政学戦略的には、我々はこの北方の巨人と手を組んで中国の拡張主義への対抗と封じ込めをすることもできたであろう。
さらに国際世論は、ネオコンが主張するような反西欧的な専制体制の打倒による中東の民主化にも、そうした考え方を反映してブッシュ政権が行なったイラクとアフガニスタンでの戦争にも、もっと共鳴していたかもしれない。そうなれば、現地のテロリストも反乱勢力も現在ほど勢いづくことはなかったかもしれない。それは彼らが本質的に弱小な軍事勢力であって、プロパガンダに大きく依存している存在だからである。世界は今よりはるかに素晴らしきものあとなったであろう。指導力の発揮を躊躇するオバマ大統領にも、排外主義丸出しのトランプ氏にも、振り回されることはなかったであろう。両氏ともイラク戦争による米国民の厭戦気運の副産物である。
第二次大戦後における日本とドイツでの民主化は、勝者にとっても敗者にとっても素晴らしきものであった。遺憾なことに、冷戦の勝者は第二次世界大戦の勝者ほど敗者の自己改革の支援に熱心とは言えなかった。我々、冷戦の勝者は「勝って兜の緒を締めよ」という日本の武士の格言に従わなかった。この失敗の影響は全世界に広まり、西側の価値観が色褪せるようになると、多くの国々と非国家アクターが我々に対抗どころか、敵対さえするようになった。しかし、プーチン氏の時代も彼が不死ではない以上、遅かれ早かれ終わる。我々はポスト冷戦期の経験から教訓を学び、将来に向けて備えるべきである。これは共産主義による専制の崩壊を目の当たりした時期に「我々が思い描いた素晴らしき世界」を再建してゆくための第一歩である。よって、新年に当たってこのことを問題提起したい。(おわり)
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