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2016-01-22 00:00
なぜ今英国はロシアの毒殺事件をむしかえすのか?
飯島 一孝
ジャーナリスト
10年前に起きたロシアのリトビネンコ元連邦保安局(FSB)中佐の毒殺事件で、英国の独立調査委員会は1月21日、「殺害はロシアの情報機関FSBの指示で実行された可能性が高く、プーチン大統領もおそらく(毒殺を)承認していた」という報告書を発表した。だが、ロシア側は「エセ捜査だ」(ペスコフ大統領報道官)などとして取り合わない考えを示した。英国はなぜ今ごろ、この問題を蒸し返したのだろうか。
この事件は、情報将校だったリトビネンコ氏が反体制派になって英国に 亡命してから起きた事件で、プーチン大統領の政敵で政商のベレゾフスキー(故人)が黒幕との見方も出ていた。だが、当時は死因が緑茶に混入された猛毒の放射性物質「ポロニウム210」と判明したものの、ロシア政府が容疑者とされた旧ソ連のKGB元幹部らの身柄引渡しを認めなかったため、逮捕・勾留も出来なかった。このため、リトビネンコ氏の妻ら遺族の強い求めに応じて、英国政府が調査委を設置、弁護士らが関係者の証人調べなどを行い、元高等法院判事が調査報告書を公表したものだ。容疑者の1人はその後下院議員に当選し、容疑を全面否認していて、事件の真相解明は無理とみられていた。今回の調査は、周辺人物からの事情調査にすぎないともいえ、プーチン大統領報道官が言うように「エセ捜査」と言われても仕方がない内容といえよう。
英国側も、ロシアの対応が予想されていながら発表したのだろう。逆に言うと、対応が分かっていながら発表した真意が何かが知りたいところである。シリア内戦、イランの核開発などで中東への発言権を強めているプーチン大統領のイメージダウンを狙ったのだろうか。それともロシアの情報機関内部に何らかのクサビを打とうという目論見だろうか。
英国とロシア(旧ソ連)との間の諜報戦は、英国の作家フリーマントルが何冊ものスパイ小説で描いているような、激しく、執ような争いなのだろう。そこからは、両国の情報機関のメンツと誇り高さがいやというほど伝わってくる。今回の報告書発表も、そのような舞台での一種の情報戦なのかも知れない。
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