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2016-01-26 00:00
日米安保条約は盤石か
四方 立夫
エコノミスト
1960年の日米安全保障条約改定以降、日本は吉田ドクトリンに基き「軽武装/経済重視」路線を貫き、昨年の安保法制の制定においても日米安全保障条約が日本の安全保障の要となっているが、果たして日米安保条約は盤石と言えるのだろうか。共和党の大統領候補者選において半年以上に亘りトップを走っているドナルド・トランプは日米安保条約は「米国は日本を守る義務を負うが、日本は米国を守る義務を負っておらず、不公平である」と批判し、「米国は世界の警察官ではなく、我々は国内の経済問題に専念すべきである」と主張している。
一方、著名な国際政治学者であるイアン・ブレマーは昨年出版した著書『超大国』の中で「米国は”Indenpendent America”となり、国際問題に関与すべきではない」と結論付け、多くの米国民の賛同を得ている。勝利の見えない戦争に疲れた米国民はモンロー主義に回帰し、アメリカ大陸に引きこもる道を選ぶ可能性が無いとは言えない。事実、「尖閣が中国に占拠された場合米軍を派遣すべきか?」との質問に対し、過半の国民が「No」と回答した、というアンケート調査結果も報じられている。1991年のソ連邦崩壊以降、「米国一極支配」と言われた時代は10年余りで終わりを告げ、「イラクは大量破壊兵器を保有している」とのCIA及びMI6の誤った情報に基いて引き起こしたイラク戦争ではかかる兵器は発見されず、「民主化」と大義名分を言い換えたものの、結果はIS誕生に道筋をつけると共に、宿敵イランの勢力拡張を助長し「シーア派ベルト」の形成を許すに至った。
更に、「アラブの春」が起こると長年の同盟国であったエジプトのムバラクをわずか10日で見放し、イランとの核合意では同じく長年の同盟国であるイスラエル及びサウジアラビアの強い不信を招き、両国への中国及びロシアの接近を招いている。オバマ政権は「アジア重視」を掲げるものの、実態は中東及びウクライナに忙殺され、中国の南シナ海での人工島の造成並びに空港の建設に対しても、工事が殆ど完成してから駆逐艦を1度その12海里内を航行させたのみで、抑止力を行使しているとは言い難い。かかる状況下、我が国としても従来の延長線上で日米安保条約のみに依存しているわけにはいかず、引き続き米国を最重要同盟国と位置づける一方、我が国自身の防衛費をNATOが参加国に求めるGDPの2%レベルに早急に引き上げ、国家防衛の決意を国の内外に示すと共に、将来中国の地位を狙うインドとの軍事、外交、経済面における関係強化を急ぎ、更にオーストラリアとの潜水艦の現地生産等を通じた安全保障面での協力強化により、中国を「囲い込み」、同国の東シナ海、南シナ海、及びインド洋への進出を食い止めることが喫緊の課題である。
又、我が国の民間企業においても、従来中国に振り向けていた経営資源をインド及びASEANにシフトし、同地域で鉄道、道路、港湾等の経済基盤の確立に貢献し、長期安定的な経済関係を構築することが併せて重要である。こうして米国が引き続きアジアに留まり、その安全保障環境を整備し、アジアが米国の経済のみならず安全保障にとっても必要不可欠の地域であることをアピールし続けることが重要である。然しながら、今年の米国大統領選の行方によっては、日米安保条約無き我が国の安全保障を考えなければならない時が来るかもしれない。そうならないことを切に願いながら・・・。
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