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2016-01-26 00:00
米中露三極構造と日本の立ち位置
松井 啓
大学講師、元大使
「世界の警察官」をやめることを宣言したオバマ大統領のアメリカは、経済成長にはかつてほどの勢いがないものの、依然として世界第一の経済力と軍事力を誇っている。他方、1993年にハンチントンが予言した「文明の衝突」は細分化して、宗教の衝突、さらに深く人種、民族の対立、ナショナリズムの衝突の様相を帯びてきている。ドイツではヒットラーの著書「我が闘争」の出版が解禁となった。「ヨーロッパのドイツ」ではなく「ドイツのヨーロッパ」になることへの懸念、アフリカや中東からの大量の移民受け入れに対する足並みの乱れに加え、スペインやイギリスでは地方政府の独立運動が鳴動しており、EUの一体性の維持が困難となってきている。
他方、中国は、一方でGNPで日本を抜いて世界第2位となり、唐時代の大中華民国の再興を目指しているが、他方で昨年の経済成長率が7%を割り、世界経済への悪影響が懸念されている。また、ソ連崩壊による失地回復を目指し、ピョートル大帝、エカテリーナ女帝時代の復活を夢見ているプーチン大統領は、クリミヤ半島併合による制裁、原油安、ルーブル安の三重苦で、国民生活に困難をもたらし、90%近辺を誇っていた支持率の低下を食い止めんと苦慮している。
このように見てくると、結局冷戦構造崩壊後の世界でアメリカの一極構造(G1)は長続きせず、急速な経済成長と軍備増強により自信をつけた中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)を設立する一方、「一帯一路」政策を推進し、南シナ海における権益拡大を試みる一方、「太平洋は中米2カ国にとり十分に広い」として米中2極構造(G2)を呼びかけている。ロシアは何度か失敗した南下政策に再挑戦し、アサド政権支持、空爆等の軍事支援でシリアでの発言力を強化している。ロシアと中国は中東の情勢変化から漁夫の利を得んと積極的に動き、国連安保理ではしばしば連携している。従って現在の国際関係は米中ロによる三極構造(G3)となったといえよう。韓国がこの地域の平和と安定に関して日本と運命共同体であることをようやく認識し、長年の懸案であった慰安婦問題の最終的、不可逆的な政府間合意に踏み切ったことは、歓迎される。
日本は、アジアでは唯一のG7のメンバーであり、本年から国連の安保理メンバーともなっている。また、北朝鮮の核開発をめぐる六者協議の枠組みのメンバーでもある。他方、今年は日ロ共同宣言(1956年)から60年周年に当たるが、日ロ関係は領土問題だけではない。安倍首相は順番や場所にこだわらずにプーン大統領と頻繁に会うべきである。ロシアには、極東の平和と安定、世界の平和、エネルギー、地球規模的課題に責任ある大国として関与してもらう必要がある。世界情勢はクリミヤ制裁を課した時に比しはるかに複雑化している。米欧も振り上げたげんこつの下し時を見かねている。先進国サミットにはロシアを組み入れた総合的な議論が必要になってきている。安倍首相の積極的平和主義外交の展開が期待される。
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