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2016-01-28 00:00
「TPP花道」の後早期辞任しかあるまい
杉浦 正章
政治評論家
政治という猫がネズミをじゃらしているが、結局最後はネズミは食べられてしまう。これが「甘利疑惑」の本質だ。経済再生担当相・甘利明はきょう1月28日夕の会見で「現金を受け取った認識が無い」などと大臣室と事務所での現金受領を否定することになろう。安倍は甘利本人の説明責任は果たしたとして、来月4日の環太平洋経済連携協定(TPP)署名式への出席を認める。しかし、これはいわば「温情あふるるはなむけ」で、最後の花道となる可能性が高い。少なくとも秘書はあっせん利得罪など刑事責任を問われる流れとなって行く方向にあり、たとえ甘利自身が刑事責任は問われなくとも、監督責任を問われる上に、世の模範となるべき閣僚としての道義的責任も浮上する。少なくとも閣僚辞任は避けられなくなるというのが筋書きであろう。27日はまるで「続投」の合唱だ。しかし、安倍の続投論も条件付きと言える。「今後説明責任を果たしていただきたい」は、ある意味で突き放した表現でもある。また与党も甘利の調印出席に関して幹事長・谷垣禎一が「甘利大臣に行っていただくというのがあるべき姿」と述べれば、公明党幹事長・井上義久も「今の時点で続投は当然だ」と語っている。これら発言の背景に何があるかと言えば、自公の“目配せ”だろう。
「な、分かっているだろう」という無言の意思疎通が背景にあるとしか思えない。「な、分かっているだろう」をより詳しく言えば、せめて花道を作ってやろうと言うことだ。井上の「今の時点」発言は、花道の後は甘利にとって「地獄の試練」が待っているということとも受け取れる。「続投」は結局「短期続投」となる公算が高いのだ。永田町に流れるあらゆる情報を分析すれば、28日の記者会見では、甘利が自らの行為と秘書の行為をくっきりと分けて説明する見通しとなっている。自らのかかわりについては「記憶にない」と現金授受を否定することになるであろう。ロッキード事件以来「記憶にない」は主観的な表現であり、後々突っ込みようがないという法的な利便性を持っている。甘利は大臣室での50万円を「記憶にない」とか「認識が無い」とかの表現で否定するのだろう。羊羹の袋に金が入っていたことについて、こうした表現で否認するのだろう。その上で「後で分かったので、秘書に返すように指示した」と言う可能性もある。
しかし、文春の報道によれば「社長が羊羹と一緒に紙袋の中に、封筒に入れた現金五十万円を添えて『これはお礼です』と言って甘利大臣に手渡しました。紙袋を受け取ると、清島所長が大臣に何か耳打ちしていました。すると、甘利氏は『あぁ』と言って五十万円の入った封筒を取り出し、スーツの内ポケットにしまいました」とある。あまりにも具体的であり、“所長の耳打ち”が、袋の中に現金があることを示唆したものであることが容易に想像できる。一方で、事務所でのやりとりについて28日発売の文春は新たな証言を掲載している。「現金入り封筒を受け取った甘利氏が『パーティー券にして』と述べると、業者側は『個人的なお金ですから』と説明し、甘利氏は封筒を内ポケットに入れた」とある。もちろんこれらの証言が当事者たちのうさんくささからいって、ねつ造である可能性は否定出来ないが、問題は国民がどちらを信用するかだ。当然28日の記者会見ではここが焦点となるだろう。甘利が言い逃れて追及を吹っ切るかどうかは、全く予断を許さない。さらに同週刊誌で注目すべき新たな点は、告発者で建設会社「S」側の総務担当と言われる一色武が、甘利の父親時代から甘利家に出入りしていたことだ。一色は「私は二十代の頃から主に不動産関係の仕事をしており、甘利大臣のお父さんで衆議院議員だった甘利正さんとも面識がありました。明氏と初めて会ったのは、まだ大臣がソニーに勤めていらっしゃった頃かと思います。正さんのご自宅には何度もお邪魔したことがあります。甘利家とは、昔からそんなご縁があり、私は清島氏が大和事務所に来るかなり前から、甘利事務所の秘書さんたちとはお付き合いさせていただいていました」と述べている。甘利が気を許した背景が見えるようである。
今日の会見で確定的なのは、甘利が秘書の行為まで完全否定しないことだろう。おそらく「第三者を含めた調査が完了し次第発表する」で逃げるだろう。したがって記者団も深い追求は困難だろう。いずれにしても甘利は既に「一連の秘書の行動は半信半疑で嘘ではないかと思った。全く私の指示ではない。報告もない」と古典的な“秘書切り捨て”論を展開している。この結果法律専門家の間では「秘書に関してはあっせん利得処罰法違反が成立する公算が高い」という見方が強い。問題はこの調査がいつ終了するかだ。これが甘利辞任と密接に連動し得るからだ。ここは当初から指摘しているように安倍は「短期決戦」しか選択肢はない。野党は甘利の留任が長引けば長引くほど喜ぶ。政権追及の材料に事欠かないからだ。逆に長引くほど安倍の支持率は下がり、政権への打撃が大きなものとなる。28日の甘利の会見を契機に新聞論調は次第に甘利辞任を求めるものに変わっていくだろう。問題は、一政治家のスキャンダルが国家とか政権の有り様(よう)に対する批判に発展するのを手をこまねいていてはならないということだ。甘利の早期辞任へと事を運ぶしか手立てはまずない。
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