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2016-02-04 00:00
(連載2)軍事力大国主義に依存するロシアとその象徴プーチン
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
この言葉に関してロシアのある論者は、次のように述べている。「パートナーあるいは同盟国と思っていたトルコによる背後からの攻撃は、今回もまたアレクサンドル3世の言葉の正しさを証明した」(『独立新聞』2015.12.18)。ちなみにアレクサンドル3世は、農奴解放など西欧化を目指してリベラルな改革者だった父アレクサンドル2世が暗殺された後帝位に就き、あらゆる分野で父親と反対の反動政策を実施し、ロシアの特殊性や特別の歴史的使命を強調し、その伝統的価値を重視した。さらに彼は、帝位に就く前に、露土戦争を指揮して1878年にトルコに勝利している。
これらは、ペレストロイカ時代からエリツィン時代に西欧的な民主化を目指した運動が、1990年代に挫折し、プーチン大統領時代にロシア独自の伝統的、歴史的価値と軍事力を重視するようになる経緯とも重なる。経済の悪化に関しては、昨年12月17日の大統領記者会見で、地方テレビの記者が地方の視聴者アンケートの結果をプーチンについて、「地方によって平均賃金は公式的には2万、3万、4万ルーブルと公表されているが(1ルーブル=約1.7円)、住民たちの多くの実際の月収は7千‐8千ルーブルしかない」と伝えた。
多くの地域で地方財政は破綻し、賃金の遅配も拡大しており、住民の間に強い不満が鬱積しているのは事実だ。世論調査でも政府や腐敗官僚に対する国民の不満は高い。しかし、不思議なことにプーチン大統領の支持率は、近年急上昇した。2011年末から2012年初めにかけて数万人規模の反プーチンのデモや集会が大都市で生じ、彼の支持率は50-60%台にまで落ちた。しかし、経済の落ち込みにも拘わらず、2014年3月の「クリミア併合」により「失ったロシアの領土を取り返した偉大な指導者」として支持率は87%余りに上昇した。さらに2015年9月のシリア空爆開始で、「世界を相手に実行力を示した強い指導者」として89.9%にまで上昇した。ロシア経済と国民生活の悪化にも拘わらず、「強大なロシア」「強力な指導者」を演出するプーチン政権は、国民の大国主義的ナショナリズムを大いに満足させているのである。ソ連邦崩壊後アイデンティティ危機に陥ったロシアは、この「大国主義」にアイデンティティを見いだし、その象徴となっているのがプーチンなのだ。
となると、経済危機が深まれば深まるほどロシアの指導部は、国民の不満を逸らすためにも、「強大なロシア」と「強力な指導者」をことさらフレームアップせざるを得なくなるのだ。冒頭に述べた経済悪化とプーチンの強気の対外政策および支持率の上昇には、密接な関係があるという理由がご理解頂けると思う。問題は、経済改革や社会の構造改革を怠ったまま、軍事力強化や大国主義の道に進むと、悪循環に陥り、ロシアは常に「危機状況」を演出しなければならなくなることだ。これは国際社会にとっても由々しい問題である。筆者の知っているロシア国民の大部分は、社会の動乱や大きな変動は本能的に忌避し、安定と平穏を切実に求める人たちだ。ロシアがもっぱら力に頼る大国主義の道ではなく、世界との安定した関係を構築する道に進むことを、国際社会にとってもロシア国民にとっても、願わずにはいられない。(おわり)
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