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2016-02-25 00:00
微妙に変わった首相の再増税発言
杉浦 正章
政治評論家
まだ1年そこそこしかたっていないから「この道はいつか来た道。ああそうだよ」と誰でも思いつく流れだろう。消費増税再延期と解散への動きだ。14年末も消費税延期で首相・安倍晋三は国民の信を問うた。今回も同じ側近らから中止論が出始め、それを理由に信を問うという説が流布され始めているのだ。それを裏付ける2つの新たな兆候が官邸から出始めた。その第1の兆候は首相・安倍晋三の答弁の流れが変わったことだ。馬鹿な委員会担当記者たちは「リーマンショック並みの事態が起こらない限り延期しない」発言を重視して、相変わらず「増税延期せず」などと判断しているが、安倍の新たな答弁の変化を見逃している。75歳の感性はそれをとらえる。2月24日に安倍は「世界経済の大幅な収縮が起こっているかどうかだが、専門的な見地から行われる分析も踏まえて、その時の政治判断で決める事柄だ」と付け加えている。これは「リーマンショック並みであるという専門的な見地」を重視し、それが出されれば「その時の政治判断があり得る」という“新条件”をほのめかしたのだ。これまでの「再延期しない」一点張りから微妙に踏み出しているのである。
第2の兆候はその専門的見地で14年に1年半の延期を理論武装した内閣官房参与・本田悦朗を安倍が久々にマスコミに登場させている。側近が安倍の意向の忖度(そんたく)なしに発言するわけがないから、安倍が認めて登場させているのだ。千両役者の再登場である。2月24日夜の報道ステーションで本田は、水を得た魚のように再延期論をぶちまくっている。焦点である「リーマンショック並みの事態」であると言っているのだ。本田は「ある意味でリーマンショック並みのショックが襲いつつある。世界経済は年初から株価が下落、そして円高。このスピードを見ているとリーマンショックの直後より激しいものがある」と断言。続けて「例えば中国経済の減速は我々が想定したものより激しい。原油価格の下落も想定以上に大きく、上昇の見込みがない」と説明。さらに「来年4月の増税実施はまさにデフレ脱却の道半ばで増税することになるので、消費が落ち込み、アベノミクスという政策パッケージの信頼が損なわれる可能性がある。やるべき時ではない」と強調した。
まさに安倍の言う「専門的見地」の官邸自家製造である。この発言に比べると、反対論の陳腐な言葉はもはや聞くことすら馬鹿馬鹿しくなる。同じテレビで中央大学教授・森信茂樹が「国際公約がおろそかになる」などと述べていたが、今世界経済は危機的な様相が強まっており、律義に国際公約など守っている国はない。むしろ5月のサミットで重要なのは、10年間国際経済をリードした中国、ブラジルなどの新興国に代わって再びG7がいかにリードの手綱を握るかにある。議長である安倍の責任は重大である。世界経済は金融緩和依存症候群のような病状を示している。その副作用も出始めており、G7は協調して実体経済の底上げとマーケットの安定化を図る必要があるのだ。そのためには日本の場合は議長国の責務としてもアベノミクスを推進してGDPを上げるしかない。GDPを上げれば税収は必ず上昇するのであって、増税がなければ年金が下がるなどと言うのは財務省の戯言だ。
逆にただでさえ、8%増税の後遺症が消えずに消費が活発化しない状況が続いているのであり、ここで打つべきはカンフル注射であって、「アベノミクス断念増税」の劇薬ではない。10%に増税すれば必ず、景気はより深い落ち込み場面へと移行する。日本経済はさらに10年デフレを彷徨(ほうこう)する。逆に凍結や延期をすれば、市場は好感するし、安倍が久しぶりに取り戻した国民のやる気や笑顔があふれる国を維持することになる。G7が日本に求めるのは増税による停滞ではさらさらあるまい。増税推進論者は2012年の3党合意を金科玉条のように掲げるが、そもそも3党合意は民主党政権下で同党幹事長・輿石東、自民党幹事長・石原伸晃、公明党幹事長・井上義久が密約してはじまったものだ。「三流政治家とは言わないが一流政治家とは言えない面々の合意が、いつまでも安倍政権の経済運営を縛るのも馬鹿げている」などという暴言は吐かないが、ちょっとだけそんな気がする。それに夏には国政選挙が控えており、戦略的にもダブル選挙は不可避の潮流となって来つつある。安倍のことだから意表を突いて4月解散が脳裏にあるかも知れないが、サミット前の外交の重要なときに選挙に血道を上げてはなるまい。議長国として6か国を歴訪して根回しをした上で、落ち着いた雰囲気の中で「世界経済巻き返しサミット」を成功させるべきであろう。
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