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2016-03-20 00:00
(連載2)アメリカ大統領選挙に見る国際主義の衰退
河村 洋
外交評論家
これと正反対に、民主党のバーニー・サンダース氏と共和党のドナルド・トランプ氏は民主主義と人権の普及に不熱心で、両候補とも極端に内向きである。サンダース氏はほとんど国内格差と労働問題を中心に訴えているが、同盟国や友好国との多国間協力を重視している。国内での市民の自由に関しては、サンダース氏は保守派のリバータリアンと同様にテロに対する安全保障のための厳しい監視に反対している。最も問題がある候補者はドナルド・トランプ氏で、それは彼が孤立主義者だからである。この人物のイスラム教徒とメキシコ人に対する炎上発言からすれば、アメリカの価値観を信じているかどうかはきわめて疑わしい。核の三本柱や戦時国際法に関する発言に典型的に見られるように、トランプ氏の外交政策に関する知識はきわめて貧弱である。トランプ氏の人権軽視は水責め拷問に関する見解で明らかになり、それに不快感を抱いたマイケル・ヘイデン元CIA長官は「軍には正当な理由でトランプ氏の命令を拒否する場合もあり得る」と言明した。彼の外交政策に関する見解は、グローバル経済と自由な世界秩序に対するブルーカラーの不信感に基づいている。トランプ氏は「アメリカが作った世界」など全く信じていない。よって民主的な同盟諸国も信用せず、民主主義の普及にも関心はない。それどころかキューバとの国交正常化をビジネス・チャンスととらえるような、共和党では例外的な候補者なのである。
その他の候補者では、共和党のテッド・クルーズ氏とジョン・ケーシック氏から民主党のヒラリー・クリントン氏まで、国際主義と孤立主義の間の立場である。彼らは大なり小なりリアリストで、必ずしも民主主義の普及を強力に推し進めようとしているわけではない。クリントン氏はファースト・レディであった1995年に中国の一人っ子政策を批判したが、国務長官として推し進めたアジア転進政策は通商志向を強めていた。国内ではクリントン氏は移民に対してより「人道的」な処遇を主張し、ティー・パーティーのリバータリアンと同様の論拠から自由法を支持している。他方でクルーズ氏は微妙な立場にいる。中国やイランといった地政学的に敵対的な体制の国には人権問題で強硬な政策を主張しながら、「レジーム・チェンジ」についてはイラクおよびアフガニスタンのように長期で大規模な兵力駐留への怖れから否定的な見解である。国内ではクルーズ氏はリバータリアンを代表するランド・ポール氏とともに愛国法から自由法への更新によるテロに対する監視の緩和を働きかけた。これは小さな政府を信奉するティー・パーティーのリバータリアンと道徳主義的な福音派を支持基盤としていることも影響している。しかし、クルーズ氏がネオコンとは相容れず、アラブの民主化にも懐疑的なのは、それだけが理由ではない。
自らをレーガンの後継者とするクルーズ氏の外交政策は、ジーン・カークパトリック氏が1979年11月に『コメンタリー』誌に寄稿した「独裁と二重基準(“Dictatorship and Double Standards”」という論文に負うところが大きい。クルーズ氏はシリアのバシャール・アル・アサド大統領のような好ましからざる独裁者とも共存を厭わず、道義的な介入による予測不能な混乱を避けようとしている。カークパトリック流ダブル・スタンダードは、ソ連への対抗のためにとられた。ネオコンや進歩的国際主義者とは違って、カークパトリック氏は文明の普遍的な進歩に懐疑的で、理想主義者よりもリアリストであった。しかしクルーズ氏は、レーガンが常に彼女の助言に従ったわけではないことを見落としている。クルーズ氏が中国やイランのようなアメリカの戦略的競合相手とシリアやエジプトのようなアラブの好ましからざる専制国家との間でダブル・スタンダードをとっていることは、自由と人権の擁護者という世界の中でのアメリカの立場を低下させかねない。
外交政策での民主主義の普及は内政とも関連し合っている。この観点から見れば、ドナルド・トランプ氏は最悪の候補者である。メディアに対する傲慢な態度、群衆の暴力を刺激する炎上発言、マイノリティーや女性や身体障碍者への侮辱での悪名には凄まじいものがある。トランプ氏が人権を訴えかけたところで世界はまず聴く耳を持たない。普遍的な価値観の追求とその成果はアメリカ外交政策の財産である。安全保障の有識者達が連名でトランプ氏の傲慢で無知な孤立主義を非難する公開書簡を出したが、それがアメリカ国際主義からの反撃の狼煙となることを望んでやまない。(おわり)
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