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2016-03-20 00:00
ODAこそ「積極的平和主義」の本命
角田 勝彦
団体役員、元大使
最近筆者は、「Juntos (ともに)」という新規の中南米対日理解促進交流プログラムの関係で、中南米諸国から来日した70名余の大学生・大学院生,行政官,ジャーナリスト等と会う機会を得た。最後の在勤地ウルグアイからも2名が招聘されていた。これは2014年夏、安倍総理が中南米訪問の際サンパウロで行った中南米政策スピーチに基づくプログラムで有益な試みであるが、筆者が多くの中南米の青年と接して改めて実感したのは人的交流のみならず開発協力、すなわちODA(政府開発援助)の重要性だった。残念なことに、3月発表されたばかりの2015年版開発協力白書によれば、2014年の日本のODA支出総額は前年比で約30%減となり米英独に次ぐ4位に落ちている。かつて1990年代を通じ世界一のODA供与国であったことはさておいても、安倍総理は昨年8月の戦後70年談話で「途上国支援を強化し、世界の更なる繁栄を牽引してまいります。繁栄こそ、平和の礎です。暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供するため、一層、力を尽くしてまいります」と国際公約している。
談話の基礎となった安倍総理の有識者懇談会の「二十一世紀構想懇談会」報告書も、戦後70周年に当たってわが国が取るべき具体的施策のうちに「国際秩序を支えるための『貧困の削減』」を挙げ「国際社会における紛争や暴力の大きな原因となっている貧困の削減への取り組みを一層強化する。対国内総生産(GDP)比で約0・2%にとどまる日本のODAを増額する必要がある」としているのである。筆者は、2007年にも本欄への寄稿で「まずはとにかくカネを出せ:日本の国際貢献」と説いた。再度繰り返したい。ODAこそ「積極的平和主義」の本命なのである。「Juntos (ジュントス、スペイン語ではフントス)」は、中南米各国で様々な分野において日本との関係強化に貢献することを期待される人々に対し、我が国の中南米に対する外交政策や伝統・最新技術等に触れる機会を設け、日本についての理解を深めることを通じて日本と中南米の絆を強化することを目的として実施されている。
「ともに発展し、ともにさきがけ、ともに夢見よう」との3つのJuntosを日本の中南米政策の中心にすると発表した安倍総理の2014年夏の中南米訪問は、現地で高く評価された。日本への評価も高まった。すなわち2014年末からの現地(メキシコ、ブラジル、コロンビア、チリ、トリニダード・トバゴの5カ国)世論調査では、「現在重要なパートナーはどこの国か」との質問に対し、アジアや欧米の主要13か国の中で米国(70%),日本(33%),中国(29%)の順で評価されたが、「将来重要なパートナーはどの国か」との質問に対しては、日本(42%),米国(31%),中国(30%)の順だった。日本は「経済力・技術力の高い国」「豊かな伝統と文化を持つ国」として期待されているのである。
中南米は世界人口70億余のうち6億人を占め、増加を続けている。米国でもヒスパニックの比率は増えている。中南米でのこのような評価の高まりは「地球俯瞰外交」の大きな成果であろう。日本から中南米への累計で300億ドル以上のODAの成果ともいえる。残念ながら、最近の開発協力はODA減額の方に向いている。日本は1990年代を通じ世界一のODA供与国であったが、ODA予算は1997年度から年々減少し、2006年までの9年間に35%も減った。さらに経済財政運営の基本方針「骨太の方針2006」はODA予算を2007年度から11年度までの5年間に毎年2~4%削減することを決めた。
2001年から首位を米国に明け渡していた日本のODAは、2006年英国にも抜かれて3位に転落した。そして2014年に独にも抜かれたのである。ODA実績が対前年比で減少した大きな要因は、円安の進行によるドルベースでの金額減少と、前年のような債務救済がなかったことによるものとされる。しかし、対GDP比約0.2%はOECD・DAC中20位と低い。また昨年2月にODA大綱が「開発協力大綱」に名称変更してから、これまで軍事転用が懸念されたため排除されてきた他国軍への活動支援が、災害援助などの非軍事目的に限ってだが、容認されるなどの変化もある。「二十一世紀構想懇談会」報告書は「日本の国際貢献は、政府開発援助(ODA)から始まり、自由貿易の促進、地域統合の促進、最後に安全保障面での貢献へと進んだ」と記している。しかし、ODAは国際貢献として「安全保障面の貢献」の下位に置かれるべきものではない。「暴力の温床ともなる貧困に立ち向かい、世界のあらゆる人々に、医療と教育、自立の機会を提供する」ODAの増加こそ 「積極的平和主義」なのである。
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