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2007-03-09 00:00
「気候安全保障」概念の意味するもの
米本昌平
科学技術文明研究所長
いよいよ来年から、温暖化防止条約・京都議定書が定める第一約束期間に入る。これを機に、内外で地球温暖化対策の議論が活発になっている。そんな中、イギリスは地球温暖化問題を、伝統的な安全保障と同格の、外交上の最重要課題へ引き上げようとしている。昨秋、イギリスのべケット外相は「気候が不安定化すれば政府の国民に対する基本的な責任である、経済・貿易・移民問題・紛争処理・貧困などへの対応が十分果たせなくなる」とし、気候安全保障をイギリス外交の重要課題とすることを明確にした。
歴史を振り返ると、環境問題が外交のアジェンダに繰り入れられてきた過程は、冷戦解体と連動していた。長い間、環境問題を政治問題化しようとする立場は反体制とみなされ、また東側諸国は、公害は資本主義の悪としてきた。ところが、冷戦解体が進み、米ソ核戦争の脅威が減じるのに反比例して、地球環境問題が国際政治のアジェンダの一角に組み入れられてきた。考えてみると、核戦争と温暖化の脅威は、次の3点で似ている。(1)脅威が地球大である、(2)各国の経済政策と連動がある、(3)脅威の実態の確認がきわめて困難。このような事態に応じて、環境安全保障という概念が登場したが、安全保障とは軍事力を前提するものと考える主流派からは、このような言葉遣いは安全保障概念を曖昧にするものとして批判された。
近年、気候安全保障の概念が登場してきた背景には、第4次IPCC報告の発表、温暖化交渉の硬直化、異常気象などが重なっているが、イギリスは、温暖化交渉が国際政治上、新しい意味を帯び始めたと考えているようにみえる。冷戦後において、地球環境問題は、それまでの黙殺からロー・ポリティクスの一角に組み込まれたのだが、ここでイギリスは、温暖化問題をハイ・ポリティクスの次元へ格上げすることでイニシアチブをとり、外交面でも倫理面でも有利な地位を得ようとしているようにみえる。批准手続きが滞っているが、EU憲法の完成によって欧州全体が不戦共同体となり、外交の伝統的主題であった軍事・軍縮問題が、欧州の内側から見ると重みが低下したからなのであろう。
このような国際変動の下、日本も気候安全保障を概念として受け容れるのは必然だとしても、その具体的戦略や表現は、質の異なったものになるはずである。温暖化問題を軸に日本の地政学的状況から眺めてみると、アジアの東端に、世界第二位の経済超大国で、かつ省エネ・公害防止技術を開発し、国内投資を一巡させた日本と、これに対して経済の急成長・エネルギー不足・環境劣悪化を抱える巨大中国という、きわめて非対称的な二国が、海一つ隔てて隣り合わせている。日本は、一見困難であるが、きわめてチャレンジングな、気候安全保障に立脚したアジア外交の理念をうち立て、これに則って近隣諸国と対話を深めていかなくてはならないのである。
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