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2016-03-31 00:00
新米国大統領を迎える日本の覚悟と備え
四方 立夫
エコノミスト
ドナルド・トランプの勢いが止まらない。彼の共和党候補指名を止めることができるのは、おそらくテッドクルーズしかいないであろう。民主党ではバーニー・サンダースが善戦している。最早だれが次期大統領候補に選ばれたとしても、怒れる大多数の米国民の声を無視することはできない。従来の様に「共和党でも民主党でも外交・安全保障の基本路線は変わらない」とは言えなくなっている。戦後長い間、わが国は「吉田ドクトリン」に則り「経済重視、軽武装」でその安全保障をもっぱら日米安保条約に依存してきた。「日本は米国に基地を提供し、米国は日本を守る」ことを長年に亘り「当然のこと」としてきたが、新大統領選出後はこの継続を当然視することはできなくなるであろう。
かかる状況下、わが国としてはだれが大統領になろうとも、日米同盟は日本のみならず米国にとってもその安全保障上必要不可欠のものであることを新政権に強く訴えると共に政官民を挙げて広く米国民にアピールすることが必要不可欠である。万が一にも米国がアジアから軍事基地を撤去することになれば、同国の「核の傘」は実質的に機能しなくなり、現在でも50%以上の国民が核武装を唱えている韓国をはじめとするアジアの国々が次々と核武装に走り、世界規模での核拡散を不可避となり、米国自身の安全保障を脅かすことになることを、米国官民に説得しなければならない。
米国が”Asia Pivot”を唱えている中でも、中国は、中南米においてニカラグア運河の建設に乗り出すとともに、欧州においてギリシアのピレウス港を買収し、さらには英国で中国の技術・資金による原発建設にまで着手しつつある。いまや中国がその影響力を全世界に広げつつあるのは自明だが、米国の海外軍事拠点からの撤退はこの動きを大きく加速させ、戦後自由世界が築いてきた「自由と民主主義」を覆し、「中国による専制主義」を新たな世界のルールに押し上げる恐れすらある。
一方、今後我が国としても従来のように米軍に自国の安全保障を委ねて安閑としているわけにはいかず、防衛費を従来のGDP1%からNATO諸国なみの2%に引き上げると共に、憲法を改正して、日本が米国と共にアジアの平和と安全に積極的に関与できるよう速やかに行動を起こすことが喫緊の課題である。合わせ、オーストラリアにおける潜水艦の建造等を通じ同国とのパートナーシップを深化すると共に、新た戦略的パートナーとなりつつあるインドとの軍事、外交、経済、等の分野において互恵関係を強化することにより、米国が引き続きアジアでのプレゼンスを維持し安い環境を整備することが、中国の東シナ海、南シナ海、及びインド洋における海洋進出を米国と共にヘッジする上で最優先課題である。それでもなおかつ米国が新大統領のもとで「アジアを去る」決意をすれば、最悪のシナリオは現実のものとなり、その中で我が国はその総合安全保障を確保するために覚悟と備えを固めなければならなくなるだろう。その時は意外にすぐ近くに来ているのかもしれない、と危惧する次第である。
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