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2016-04-01 00:00
(連載2)アメリカ大統領選挙での外交政策チーム
河村 洋
外交評論家
ライバル候補者達の顧問チームは、これとは対照的に質量ともはるかに不充分である。サンダース氏は外交政策チームの名に値するものは設立していない。共和党側の外交政策チームはイスラム系テロに対する大衆の恐怖心に迎合する一方で、世界の中でのアメリカの役割に関してはほとんどビジョンを示せていない。まずテッド・クルーズ氏のチームについて述べたい。クルーズ氏はトランプ氏に先んじて自陣営の顧問の名を公表した。チームを主導するのはジム・タレント元上院議員とブッシュ政権のエリオット・エイブラハムズ元国家安全保障担当副補佐官である。ネオコン系の両人とも、マルコ・ルビオ上院議員が大統領選から撤退するまで、彼の政策顧問チームに名を連ねていた。他方で、反イスラムの陰謀論者を代表するフランク・ガフニー氏は「在米ムスリムの4分の1は反米ジハードを企てているばかりか、彼らのシャリア法は米国内で重大な脅威となっている」と主張する。
クルーズ氏が最近「イスラム教徒の住民の周辺では監視を強化すべき」と主張した背景には、こうした見方があるのかも知れないが、共和党主流派はそうした考え方を受け入れていない。クルーズ陣営のチームは党内のイデオロギー的立場を広くカバーしているが、特定の問題に関する見解の相違が深刻化した際には、普遍主義者のネオコンとナショナリストの陰謀論者の間で亀裂が生じかねない。また顧問の人選も中東とイスラム系テロの専門家に偏っている。それでは今日のアメリカが直面する全世界規模での課題に対処するという要求を満たすには程遠い。
最後にトランプ氏の外交政策チームについて述べたい。クルーズ氏と同様にトランプ氏のチームも、イスラム系テロ対策に偏った人選となっている。クルーズ氏に対抗するかのように、トランプ氏は相手陣営の発表から数日後にジェフ・セッションズ上院議員主導の外交政策チームを公表した。トランプ氏の顧問団には著名な人物も政府の高官を歴任した人物も名を連ねていない。際立った特徴を挙げれば、トランプ氏のチームは、自らが経済人であることに由来するかのように、極端な商業主義に偏っている。チーム内で重要な地位を占めるカーター・ペイジ氏とジョージ・パパドプロス氏はともに石油エネルギー業界のコンサルタントである。中にはきわめて眉唾でアウトローな経歴の人物もいる。まず、ジョセフ・シュミッツ氏は度重なる腐敗に関わって2005年にペンタゴンを辞職している。他にもワリド・ファレス氏は、レバノンでキリスト教徒民兵として参戦した際にパレスチナ難民を殺戮しているが、そうした犯罪的な行為に及んだ人物が対テロ政策の顧問となっている。さらに驚くべきことに、キース・ケロッグ退役中将にいたっては、彼の主張とは裏腹に2003年から2004年にかけてイラク占領軍での陸軍の雇用履歴が残っていない。
このようなあきれるばかりの人選について、ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン氏は「トランプ氏は経験など歯牙にもかけないのか。それともあまりの暴論で見識のかけらもない人物の顧問などになって自分の評価を落とすようなことは誰もやりたくないのか」と論評している。トランプ氏の外交政策に関する見識が、ワシントンの外交および安全保障政策コミュニティーで党派とイデオロギーを超えて共有される認識とは全くかけ離れているのも不思議ではない。そうした見解が顕著に表れているのは、アメリカが全世界で築き上げた同盟ネットワークの価値を軽蔑しきっていることである。中でも典型的なものは日本と韓国への自主核武装の要求で、これでは全世界での核不拡散を目指すアメリカの安全保障上の至上命題を真っ向から否定することになる。もはやこうなると、事態は、二国間同盟だの、バードン・シェアリングだのどころではなくなる。トランプ氏の発言は、党派の枠を超えて核不拡散に取り組む外交政策の専門家達に対して、およそこの世のものとは思えないほどの侮辱である。核兵器保有国が増えれば増えるほど、テロリストが核兵器を入手する可能性が高まるということを、トランプ氏は知っておくべきである。
政策顧問の選任に関して言えば、指導者は国民よりもはるかに大きな視野から事態を見通さねばならない。候補者は国民の要求に応える必要がある。しかしそれだけでは不充分である。良き指導者となるには、注目されていなくとも、重要な問題に国民の意識を向けさせるべきであり、大衆の怒りに迎合してばかりではいけない。こうした観点から言えば、クリントン氏のチームが最善であり、トランプ氏の顧問団が最悪である。クルーズ陣営のチームはブッシュ陣営およびルビオ陣営から人材が参入してくれば、質量とも向上する可能性はある。(おわり)
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