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2016-04-04 00:00
アメリカはどこへ向かうのか?
鍋嶋 敬三
評論家
米国の大統領選予備選挙で共和党の異端児・トランプ候補がトップを走り続けている。大手メディアとのインタビューで、日本や韓国の核保有を容認、日韓からの米軍撤退、日米安全保障条約の再改定交渉など、アジアの安全保障に直結する問題について驚くべき発言を繰り返してきた。政治経験がない不動産王のトランプ氏は議会も含めた政治エスタブリッシュメント(体制)側から疎外されてきたという被害者意識が強い。それは「共和党全国委員会、エスタブッシュメントに非常に不当に扱われてきた」というテレビ発言にも見える。一方でワシントン政治の「アウトサイダー」を売り込むことによって共和党員の不満を吸収してきたのも事実。巧妙にポピュリズム(大衆迎合主義)を利用してきたのだ。
トランプ氏は「孤立主義者ではない」と断りながらも、「アメリカ第一主義」を標榜する。在外米軍の使用について「例外のない一律の基準」は「わが国を守ること」だと断言する。米国は中国や日本、韓国、中東諸国からも「馬鹿にされ、ぼられてきた」し、「時代遅れ」の北大西洋条約機構(NATO)にも「カネを払いすぎた」ので、「米国は誰からも利用されないようにする」(ニューヨーク・タイムズ紙インタビュー)と、グローバル社会に背を向ける姿勢を見せている。その姿勢の原点はカネであることが発言から見て取れる。日韓からの撤退論の根拠は駐留米軍基地の経費が無駄だというわけである。南シナ海で攻撃的手法で支配力を強めようとしている中国に対する戦略を問われても、「米国は中国に対するとてつもなく大きな通商力がある」と、経済の話にすり替わってしまうのだ。経済戦争になれば中国も対米経済報復に出るのは必至だが、それについての言及はない。
トランプ氏の思考には安全保障や外交についての「恐るべき無知がある」(ニューヨーク・タイムズ紙)と指摘されている。日本、韓国、NATOなどとの同盟条約によって抑止力が働き、何とか平和を維持してきた戦後の歴史を無視している。第2次大戦後、米国が主導して作り上げてきた国際連合、多国間、二国間条約のネットワークによる安全保障体制や国際経済秩序は現在、米国の指導力低下でほころびが目立つようになった。次の大統領に課された使命は中国をはじめとする新興勢力の挑戦に揺らぐ国際秩序の立て直しである。しかし、トランプ氏は逆さまの方向に動こうとしているのだ。外交政策を曖昧にしている理由として「予測不可能性」を掲げる同氏は核のボタンを握る米国の最高司令官として最も不適格だろう。米国や日本がようやくまとめた環太平洋経済連携協定(TPP)も、大統領選挙と同時に実施される議会(上下両院)選挙の行方によっては、批准が不透明になる。
21世紀の米国政治は中道派の退潮による左右の分極化で、機能不全を繰り返してきた。民主党で最有力候補のクリントン氏に対して格差是正を訴える左派のサンダース氏が予想外に支持を伸ばし、「クリントン大統領」になってもTPP 反対など政策判断に影響を与えるだろう。ワシントン・ポスト紙は「トランプ氏にホワイトハウスを託せば、米国にとって大きなリスクを冒すのは確かだ」として、大統領にふさわしくないと結論付けた。トランプ氏が代議員の過半数を取れず、共和党内の調整で指名候補者が決まるとしても、党内に深い傷が残る。2016年大統領選挙は二大政党の再編も含め、米国政治に与えるインパクトは歴史的なものになるだろう。アメリカはどこへ向かおうとしているのか?
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