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2016-04-06 00:00
日本はトランプ氏にどう対応すべきか?
河村 洋
外交評論家
ドナルド・トランプ氏の衝撃的な放言によって、日本国民は国家安全保障について懸念を強めるようになり、独自の核抑止力の保有についても語り始めるようになっている。しかし我々は慎重でなければならない。かりにも、万一行動予測不可能な人物が大統領なったからと言って、それに合わせて我々もまた常軌を逸した政策を採用するようなことがあってはならない。仮にトランプ氏が大統領に就任したものとしても、彼の任期が保障されているのは1期4年にすぎない。日本が核兵器を早急に製造しても、彼が再任されなければ、次の任期には他の人物が代わりに大統領になり、アメリカの外交政策は元に戻るであろう。その場合、次期大統領が日本の核保有を容認するとは考えにくく、日本は膨大な時間と労力と資金を無駄にしてしまうだけでなく、日米関係そのものに回復困難な傷を残すだろう。さらに、トランプ氏自身の思考と行動が突飛で当てにならないことを考慮すれば、当初段階ではトランプ氏は日本の核抑止力を容認するかもしれないが、4年間の任期の内には急に変節しかねない。そうなった場合にはトランプ氏は日本をイランや北朝鮮のように扱いかねない。
さらに問題視すべきこととして、私は「トランプ氏は任期中に在日米軍の全てを撤退させるつもりなのか」という問題を提起したい。日本に駐留するアメリカの陸海空軍の規模は膨大であり、また在日米軍そのものが日本社会に深く根を下ろしているので、撤退の手続きには信じられないほどの膨大な形式的行政事務が付いて回る。軍事基地が関わる土地所有権の問題があり、日本の空域を管轄する横田米空軍基地の問題がある。さらに付け加えると、撤退のスケジュールの問題がある。トランプ氏は米軍撤退がもたらす地域の「力の真空」の危険性に一切の考慮も払わずに直ちに撤退交渉を始めるつもりでいるのだろうか。
トランプ氏の日米同盟と核安全保障に関する考え方は、これまでの米国の考え方のコペルニクス的転換である。しかし、彼がそのことの意味を十分に理解しているとはとても思えない。全世界のアメリカの同盟国の中でもトランプ氏が最初に槍玉に挙げたのは、日本である。対日関係の全面的見直しがそこまで重要だと言うのなら、トランプ氏の外交政策チームに日本情勢に精通した顧問が一人もいないのはどうしたことだろうか。さらに深刻なことに核安全保障に関するこの人物の知識はきわめて貧困である。トランプ氏は「核の三本柱」さえ知らなかった。そのうえ、中東でのイスラム系テロリストに対して戦術核兵器の使用を主張した。それはこの人物が核兵器の破壊力についてあきれるほど無知なことを露呈している。たとえ戦術的使用であっても、核兵器は無数の民間人を殺傷する。トランプ氏がこれらの事柄について何も学んだことがないのは明らかである。
もはや、ただ分析をして、嘆いているだけの時ではないのかもしれない。確かに我々は米大統領選の有権者ではないが、トランプ氏の当選は全人類の生存を脅かしかねない問題である。その打倒に向けて我々は行動を起すべきである。この目的のために、私は日本のオピニオン・リーダー達がこの人物あてに公開書簡を出し、我々の懸念と憂慮の念を表明すべきだと提言したい。良心的なアメリカ国民は絶対に我々に味方することに疑いの余地はない。本論の冒頭で述べたように、我々の二国間関係はトランプという御仁よりはるかに永く続くものである。日本の国益は、トランプ氏の考え方に適応して、核武装するによって得られるものではない。
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