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2016-04-20 00:00
(連載1)中国は「三つの罠」を回避できるか?
鍋嶋 敬三
評論家
21世紀は「中国の世紀」になるだろうか?中国は購買力平価(PPP)で見た国内総生産(GDP)では既に米国を抜き、核兵器を含む軍事力増強に邁進、「一帯一路」政策でアジアから欧州へ広大な経済圏の形成を目指している。歴史上、例を見ない巨大な新興国家の出現によって、20世紀半ばに構築された世界秩序がきしんでおり、南シナ海の紛争はその一例に過ぎない。中国の将来は、急激な経済の膨張と軍事力の拡充がもたらす様々な軋轢をどのように処理できるかにかかっている。中国は今、三つの「罠」に陥りかねない危ない状況にある。それは(1)ツキジデスの罠、(2)安全保障のジレンマ、(3)中所得国の罠である。これらの罠を回避することが、真に影響力のある世界国家として確立できる要件となる。以下に、各別に私見を述べる。
まず(1)ツキジデスの罠について論ずる。中国の習国家主席の公式訪米(2015年9月)を機にクローズアップされた。ハーバード大学のG.アリソン教授は「現世代の世界秩序についての論点は、米中両国がツキジデスの罠を回避できるかどうかである」と述べ、「2400年前にギリシャの歴史家ツキジデスが古代ギリシャのアテネとスパルタの関係において指摘したように、新興勢力が既成大国にとって代わろうと挑戦すれば、戦争が不可避になる」と論じた。ライバル間のバランス・オブ・パワーが急激に変化することで問題が生じる。過去に不公平な扱いをされたという意識を持つ新興国が、力の新しい現実を反映するよう過去の取り決めを変更すべきだと主張するという。この新興国の姿は、一方的に現状変更を押し進める現世代の中国の姿に通じる。
アリソン教授は中国の過去35年間(1980~2014年)の興隆ぶりを例証した。中国のGDP(PPP換算)は米国の10%→101%(ドル交換レートでは7%→60%)、輸出は6%→106%、外貨準備高は米国の6分の1→28倍。習主席はオバマ大統領との首脳会談後の共同記者会見で、第2次大戦後の戦勝国の立場を強調して「現在の国際システムをしっかり守る」と言いながら、「より公正で理にかなった方向に発展させる」と言明した。大国として正当な扱いを受けてこなかったとして、さらに大きな発言力を求める意思表示だ。
米中が戦争を避けるためには、何をなすべきか。アリソン教授は双方の指導者と国民の考え方と行動に根本的な変化が必要だと言う。米中国交に道筋を付けた1970年代のキッシンジャー大統領補佐官と周恩来首相の間で見られた深い相互理解の重要性を強調している。結論は平凡だが、最高首脳レベルでの意思疎通を恒常的に行うことが戦争回避の最高の道になるということである。(つづく)
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