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2016-04-21 00:00
(連載2)中国は「三つの罠」を回避できるか?
鍋嶋 敬三
評論家
「ツキジデスの罠」を論じたアリソン教授は500年間に16件の主な紛争があったと結論付けた。12件は戦争になり、4つのケースは戦争に至らなかった。日本が関わるのは戦争が2件(日清・日露、および日米戦争)。戦争にならなかった1件として、1970~1980年代の日本と旧ソ連の関係(北方領土問題)を取り上げた。1987年までにGDPで日本はソ連を追い抜き、一人当たりでは2倍以上になった。通常、このような劇的な変化によって「失われた領土」回復要求のため緊張が高まるところだが、日米安全保障条約による米軍の存在、核の傘の保証で「日本国内の領土返還要求への衝動が抑えられた」と教授は分析している。日米安保体制が「ツキジデスの罠」を回避したのである。
「安全保障のジレンマ」とは自国の安全保障を高める意図に基づく行動が他国のこれに対抗する行動を誘発し、結果として衝突につながる危険を生み出すことをいう。習政権の下で公然と進められてきた南シナ海における軍事的拡張が誘発したインド、フィリピン、ベトナムなどアジア諸国の軍拡と対米軍事協力の強化がその典型である。中国が東シナ海の尖閣諸島(沖縄県)への領海侵犯を繰り返し、防衛識別圏を設定したが、日本は離島防衛のため海上保安庁の巡視船増強、南西諸島への自衛隊の重点配備をせざるを得なくなった。米国は国際法に基づく航行、飛行の自由を守るとしてフィリピンと共同パトロールを南シナ海で実施する。そういう意味で、東シナ海、南シナ海では「安全保障のジレンマ」が進行中である。核兵器開発でも、より小型で破壊力の小さい核兵器の導入を米国、ロシア、中国が進めている。クラッパー米国家情報長官は「もう一つの冷戦のような悪循環に入りつつある」との懸念を示した。
「中所得国の罠」とは、発展途上国が経済成長を遂げたものの、一人当たりGDPが1万ドル付近で足踏みして、なかなか先進国入りできない状態を指す。アジア開発銀行(ADB)の報告書(2011年)で注目された。アジアで先進国入りしたのは日本以外に「4匹の虎」(韓国、台湾、香港、シンガポール)しかない。中国の一人当たりGDPは2014年に7590ドル(世界銀行)であったが、中国の国家統計局が4月15日に発表した2016年1-3月期GDPの実質成長率は前年同期比6.7%で、2015年通年の6.8%に続き経済の減速が続いている。経済停滞は人口の高齢化、格差の拡大などの問題を抱える習指導部にとって大きな不安材料である。
経済停滞の大きな要因として、赤字を抱える国営「ゾンビ企業」の問題が指摘される。共産党一党支配の下、党、軍、政府、国有企業による既得権益層という「岩盤」が形成されている。なんらかの構造改革を断行しない限り、先進国への道のりは険しい。中国の楼財政部長は1年前に「今後5年から10年の間に中国が『中所得国の罠』に陥る可能性は五分五分だ」と警告し、注目されたが、「それを防ぐためには開放経済体制を取るべきだ」と主張している。21世紀を「中国の世紀」とするためには「三つの罠」をクリアする必要がある。中国の習指導部は重い課題を背負っていると言わなければならない。(おわり)
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