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2016-04-26 00:00
(連載2)オバマ大統領は広島でトランプ氏に警告を発せよ!
河村 洋
外交評論家
我々が思い出すべきは、1998年にインドとパキスタンが互いに核実験を繰り返した際には、そうしたシステムは全く作動せず、両国の核競争が地域の緊張を高めただけだったということである。さらにイスラム過激派に対しては、核抑止力など全く効果がない。彼らは敵からの殲滅に恐怖を感じていないばかりか、我々との間には米ソ間ホットラインのように予期せぬリスクを予防できる相互の意思疎通手段もない。イスラム過激思想の根本的な価値観では「西欧十字軍」との戦い自体が目的である。よって歯止めなき核拡散は抑止力を強化するどころか、空洞化してしまうのである。こうした観点から、日本が独自核戦力によって北朝鮮に対する抑止力を構築できるかを問いかけねばならない。
軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は「日本が核武装をしても北朝鮮は戦争のリスクなど厭わない。アメリカの大量報復だけが冒険主義的なキム政権による核戦争を予防できるだろう」と主張する。田岡氏の分析は理に適っているが、それは北朝鮮の核威嚇の目的が、アメリカを交渉に引き込んで、自らの体制の生存を保証することだからである。またIAEA事務局長が日本外務省出身の天野之弥氏であるという事実は、日本とNPT体制が切っても切れない関係にあることを意味している。それはこの秩序を構築したアメリカにとっても非常に重要かつ超党派の国益である。しかしトランプ氏はただの利潤追求者であるせいか、こうしたことには全くの無知・無関心なのである。北朝鮮からISISにいたるまで、トランプ氏の核戦略は全く意味をなしていない。トランプ氏の支持者の大多数は核安全保障のことなど考えたこともないので、彼の扇動で悦にいたるばかりである。これはきわめて危険である。よってオバマ氏は、全世界で核問題を軽く考えている政治家、その中でもトランプ氏に対して、強いメッセージを発するべきである。これは後世におけるオバマ氏の評価のためではなく、国際公益のためである。
アメリカ国民が広島における大統領の言動が自国の外交に好ましくない影響を与えると懸念することは理解できる。私もトランプという怪物の出現まではそうした視点を共有していた。確かにアメリカ側から一方的な自責の念を表明しても、日本側も相応の行動に出なければ、アメリカ国民もアジア諸国も当惑するだろう。オバマ氏が広島で演説すれば、パール・ハーバー攻撃とバターン死の行進の痛ましい記憶を刺激し、日米両国民の間で大戦中の歴史認識に関する相違が表面化することもあろう。しかし安倍晋三首相が、その返礼として、連合国の戦争被害者を追悼し、互いにとってより良い未来を模索することを真剣に考慮するであろう。我々にとって必要なものは、謝罪でも後世での評価でもなく、将来の核不拡散に対する関与のメッセージである。リベラル派の論客からはプラウシャーズ・ファンドのジョセフ・シリンシオーネ会長が「ブリュッセル事件によって核テロの可能性は高まり、オバマ大統領は広島でそうしたテロを防止するためにリーダーシップを献身的に発揮することを示さねばならない」と主張する。
もはや過去への悔恨の時ではない。我々が切実に必要としているのは、核安全保障への問題意識を喚起し、核不拡散に不誠実な態度をとる指導者には、誰であれ反対の声を挙げることである。特にドナルド・トランプ氏は、今日の世界ではその存在自体が最大の核の脅威である。核問題に関する真剣味に欠ける発言からして、トランプ氏が大統領の職務に真面目に取り組もうとしているとはとても思えない。バラク・オバマ大統領が広島を訪問する際には、全世界の人々がそのように恥知らずな政治家を排除してゆくように導く強いメッセージを発することを望んでやまない。(おわり)
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