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2016-05-08 00:00
プーチン露大統領の広島訪問を提案する
松井 啓
初代駐カザフスタン大使
5月26、27日のG7伊勢志摩サミットを控え、安倍首相は5月の連休中にサミット議長として伊、仏、ベルギー(EU)、独、英各首脳と会談し、5月6日にはクリミヤ半島併合により制裁でサミットから外されたロシアを「非公式」に訪問し、南部のソチでプーチン大統領と夕食を含め3時間以上会談した。両者の会談は今回が10回目であり、お互いにケミカル(波長)が合うと評されている。戦後70年以上を経ても平和条約が締結されていないのは、確かに「異常な状態」である。今年は日露共同宣言(1956年)から60年周年に当たるが、プーチン大統領との間で「新しいアプローチ」で北方領土問題を解決し、平和条約を締結したいとの安倍首相の強い思い入れがうかがえる。会談では安倍首相から、極東地域の石油・ガス等エネルギー開発、港湾施設の整備や農業等の産業振興、上下水道等のインフラ整備、先端病院等建設による市民生活向上などの「8項目の経済協力計画」を提示したと報道されている。
ロシアは、財政収入の4割を石油・ガス等に頼っている資源依存国であり、近年は石油価格の下落や経済制裁、ルーブルの暴落による三重苦にあえぎ、経済成長はマイナスとなっており、経済の多角化による経済近代化、シベリヤ・極東の経済開発が積年の課題である。日本はコスイギン首相時代に港湾建設、森林資源開発、石油・ガス資源開発等の大型プロジェクトの開発に協力した実績もあるので、ロシアの日本に対する期待は大きい。他方ロシアの常套手段である交渉開始前にハードルを高くする動きもあり、ラブロフ外相の「領土問題は第二次大戦の結果であり、解決済み」との発言や、昨年8月のメドベージェフ首相の北方領土訪問、サケ・マス流し網漁法の禁止、北方領土及び千島列島への地対艦ミサイル配備等々の日本に対する様々な揺さぶりもある。
安倍首相は「平和条約締結問題を含む政治、経済、文化などの二国間、あるいは国際社会が直面する様々な課題について、胸襟を開いて話し合いたい」と語り、「大統領の訪日を有意義なものとすべく、最も適当な時期を探りたい」とし、プーチン大統領は安倍首相を9月2,3日にウラジオストクで開催される東方経済フォーラムに招請した由である。日本はG7のメンバーであるとともに、本年から国連の安保理メンバーとなり、また北朝鮮の核開発をめぐる六者協議の枠組みのメンバーでもある。日ロ関係は領土問題と経済協力関係だけではない。地球規模的課題、宇宙開発、北極圏開発、エネルギー資源の需給安定化、極東の平和と安定、更には、ウクライナ、中東、世界の平和と安定に責任ある大国として協力関係を構築していくことが求められている。
核軍縮に関しては、オバマ米大統領が2009年4月にチェコを訪問した際、プラハで演説し、核セキュリティ・サミットを提唱したが(ノーベル平和賞を受賞)、2015年5月ニューヨークでの核不拡散条約(NPT)再検討会議では、「世界の人々に広島、長崎を訪問して核兵器の悲惨さを見てほしい」という日本の提案は中国の反対で削除され、結局いかなる文書も採択されなかった。他方、本年4月のG7広島外相会合では「核兵器のない世界」実現に向けた国際的機運を高めていくことが合意され(広島宣言)、ケリー米国務長官以下G7の外相が広島平和記念資料館を見学し、記念碑に献花した。来るG7伊勢志摩サミットの際には、オバマ大統領の広島訪問がの可能性が取りざたされている。米露だけで世界全体の核弾頭の90%以上を保有しているので(2015年4月の推計では露7,500、米7,100、仏300、中250、英215、世界全体15,680)、核軍縮においては米露のイニシアチブが非常に重要である。安倍首相は、プーチン大統領との次回会談を年内に地元・山口県で行いたい意向のようであるが、その機会にプーチン大統領にも広島訪問を提案してはどうか。これを実現させれば、核軍縮とならび、日ロ関係の機運も一気に高めることになろう。
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