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2016-05-09 00:00
中国の分断策で問われるASEANの一体性
鍋嶋 敬三
評論家
中国が南シナ海紛争で東南アジア諸国連合(ASEAN)の分断工作を本格化させた。4月下旬、王外相がラオス、カンボジア、ブルネイとの4ヵ国間で、南シナ海の領土紛争が「中国とASEAN全体の問題ではない」ことで合意したと発表した。この合意(コンセンサス)の内容は、(1)紛争はASEANブロックとしてではなく、個別の国家間のもの、(2)関係諸国間で解決すべき、(3)力の行使や脅しによらない解決、(4)中国とASEANは南シナ海の平和実現に協力すべき、の4点である。従来の中国の主張に沿った内容だが、特徴は海洋の紛争がないアジア大陸部のラオスとカンボジアを取り込んだ上、紛争当事国であるブルネイをも巻き込んだことだ。狙いは明らかである。ハーグの常設仲裁裁判所がフィリピンの提訴を受けて5月中か6月には出すと予想される決定が中国に不利になることを見越して、国際戦線を形成し、ASEANとして決定を支持する共同声明を出さないよう杭を打ち込んだのである。
中国の「反仲裁」キャンペーンはすさまじい。王外相の発表に続き、外務次官が「ASEANの共同声明に反対」、「外部勢力(米国、日本)によってASEANと中国の関係を犠牲にするな」、外務省報道官は「仲裁は法律の衣をまとった中国への政治的挑発」、駐英国大使がタイムズ紙に「外部勢力の介入」非難の寄稿、そして外務省海洋事務局長が記者会見で「仲裁結果を受け入れない」と断言した。まだ決定が出ていないにもかかわらずである。中国は過去にも外交圧力をかけてきた。カンボジアがASEAN議長国だった2012年の外相会議では史上初めて共同声明を出すことができなかった。2015年のマレーシア首脳会議では中国の名指しに失敗した。今回のキャンペーンはその延長線上にある。ラオスは今年(2016年)の議長国を務める。トンルン首相が5月、主要国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)の拡大会合にASEANを代表して出席するのは意味がある。
東南アジアの専門家の間では、中国の狙いがASEANによる共同声明発出を防ぐことだとの認識では一致している。しかし、中国のあからさまな分断工作は対中批判を一層強める結果を招いた。元ASEAN事務局長は「ASEAN内部への干渉」と非難した。ASEANと中国の関係を律するのは2012年合意の南シナ海における関係国の行動宣言(DOC)であり、ラオスが今年の議長国であることを踏まえ、「ASEANのために発言すべきではないのか」とラオスにも批判の矢を向けた。シンガポール外務省高官はASEANの分裂は中国の利益にならず、「極めて近視眼的」と酷評した。地政学の視点から見た場合、ラオスとカンボジアを取り込んで東南アジアの大陸部(インドシナ半島)と中国南西部を「一つの経済圏」(同顧問)に組み込む戦略的な意図が指摘される。
中国の分断策にどう対応すべきかは、ASEANや日本にとっても難しい問題である。第一に、ASEAN内部の結束固めが必要だ。一体性を確立しなければ、2015年末に「経済共同体」が発足し、将来の政治、安全保障を含めた全体の「ASEAN共同体」は砂上の楼閣になる。第二に、日本にとっては二国間、多国間協力を強めることが課題である。岸田文雄外相が5月初旬、ラオス、ミャンマ-、タイ、ベトナムを歴訪した。対中戦略上も時宜を得た対ASEAN外交の展開だったと評価したい。さらに頻繁に外相、首脳レベルの相互交流を進めるべきである。中国との紛争当事国のベトナムとはASEANの結束の重要性で一致した。政府開発援助(ODA)を積極的に活用しインフラ整備、人材育成で国力を強め、過度の中国依存体質からの脱却を日本が支援することがますます重要になる。「ASEAN+日本」など首脳レベルでの多国間協議で日本との協力関係を深めることが、長期的に中国に対する強靱さにつながるだろう。
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