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2016-05-31 00:00
内閣不信任案の牽強付会は著しい
杉浦 正章
政治評論家
仲がいいのに首相・安倍晋三に真っ向から解散を求めるのは、財務相・麻生太郎の“大芝居”と思っていたが、やはりそうであった。本当に解散を求めたのではなく、財務官僚に向けて怒って見せたのだ。いくら財務官僚が政治に疎いからと言って、たった3日で消費増税再延期にゴーのサインを出すとは思わなかっただろう。まったく芝居がうまいが、すぐにばれる政権だ。それにつけても、財務省には悪いが、消費増税路線は極めて厳しい状況となった。2年半後に実現するかと言えば、安倍がやっていれば実現を迫られるが、2018年9月の任期でやめてしまえば、次の首相が就任早々でやれるわけがない。実体は事実上凍結なのだ。その芝居がうまい政権に野党が不信任決議案を上程する。不信任案となれば否決でも可決でも解散に直結し得るが、民進党代表・岡田克也はおそるおそる「解散せよ」と言いながら「どうか解散でダブル選挙になりませんように」と必死に祈っている。それにつけても今回の野党の不信任案提出ほど牽強付会なものを知らない。アベノミクスの失敗、国民の声に耳を傾けない強権的な政治、憲法改悪の3点が提出の理由であるということだが、果たして核心のアベノミクスは本当に失敗したのだろうか。野党は朝日新聞に踊らされているだけではないのか。
アベノミクスと言えば、政権の根幹をなす最重要政策であり、この失敗は政権の全否定につながる。となれば、まず内閣支持率が竹下内閣のように3%まで落ち込まなければならない。しかし日経による直近の支持率は上昇して56%だ。史上最高の支持率を確保している首相が国民によって全否定されているのだろうか。されているわけがない。なぜなら多くの国民は、「財源などは何処にでもある」と国民を欺いた民主党政権の3年3か月こそが、欺瞞(まん)であったと思っているのだ。有効求人倍率、失業率、企業の利益がそれぞれかってない好調な状況にあるのは、紛れもなくアベノミクスのもたらした効果である。朝日と野党は国内総生産(GDP)の低さを指摘するが、国民はGDPなどどうでもいいのだ。はっきり言って求人が潤沢で、嬉しい悲鳴なのだ。求人がなかった民主党政権より、働く場が(文句さえ言わなければ)潤沢な安倍政権の方がいいのだ。GDPが低いからアベノミクスは破たんしたという岡田の主張は、まさに木を見て森を見ない、かつての社会主義政党丸出しだ。大企業は史上最高の利益を上げている。その利益が中小企業にもおよび始めているのが、最近の傾向だ。トリクルダウンがないと言ってケチをつけてきた野党の主張はここでも破たんする。
大企業と中小企業が好調ならば、やがて消費意欲にも波及してGDPが上昇に転ずることは目に見えている。さらに野党は朝日の社説「首相と消費税、世界経済は危機前夜か」に踊らされている。安倍のサミット議長としての運営に独善的なクレームをつけたものだ。社説は「世界の需要が一気に消失したリーマン時と、米シェール革命など原油の劇的な供給増加が背景にある最近の動きは、構造が決定的に違う」と主張している。さすがに朝日の影響力は大きく、テレビに出る経済評論家も恥ずかしげもなく、これをおうむ返しに請け売りしている。しかし、安倍は「構造的に同じだ」などとは言っていない。「現に危機がそこにある」と言っているだけだ。政府の会合でノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・ スティグリッツ米コロンビア大教授が世界経済の状況を「大低迷」と形容したとおり、G7の多くの国々では恒常的に多くの失業が発生しており、日本ほどの人手不足は考えられない状況にある。
朝日は全く触れていないが中国発の不況をどうとらえているのだろうか。この世界的な経済の不振は中国のバブル崩壊に端を発して、なをも影響が続いている事に言及していない。石油安に直面した産油国の不振にも言及していない。社説はご都合主義の批判のための批判を展開しているのだ。こうした危機感があったからこそG7の宣言は「世界経済に対する下方リスクがある。我々は重大な危機に陥ることを回避するために適時にすべての政策を行うことにより対応する」と述べているのである。メルケルが「危機ではない」と述べているのは、あくまで「現状が危機ではない」と言っているのであって、将来については言及していない。むしろ危機感を共有しているからこそ“リスク宣言”がまとまったのだ。だいいちメルケルは会議終了後に「サミットは成功であった」と述べているではないか。将来の危機感を共有しなかったら「成功」とは言わない。
サミットは矜恃を持った世界のトップリーダーの集まりであり、日本の都合で、増税回避のための誘導など出来るわけがないのである。これを主張する岡田は、副総理までやったのに、サミットのありようを理解していない。中国の危機がいつ世界経済に悪影響を及ぼすかは、全く予断を許さないのであって、政治家として先を見据えた警鐘を鳴らすことは、まさに「先見の明」なのである。これを批判するのは「不明の到り」でなくて、何であろうか。朝日も、野党も、議長を務めた安倍の働きぶりについて日経の調査の62%が「評価する」と答えているのをどう見るのか。評価する国民を衆愚とみなすのか。その独りよがりが、発行部数を減少させ、野党の支持率はあってなきが如き状況にいたらしめているのだ。要するに、アベノミクスの失敗を指摘する野党の内閣不信任案はあまりにもこじつけが目立つと言わざるを得ない。参院選でも野党は不信任案の主張を繰り返すと見られるが、国民の共感は得られまい。こうして消費増税は延期の方向が確定したが、2年半と言えば安倍の任期を越えている。しかし、安倍が次の衆院選挙で勝った場合には、当然任期の延長問題が浮上する。したがって、消費増税は安倍政権なら可能だが、政権が代わった場合は全く分からない。2度あることは3度あると思っていた方がいい。その代わり、税収増が絶好調であり、消費増税でこの流れを塞ぐことこそ、今の経済状況にマッチしないのだ。
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