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2016-06-08 00:00
日本の総合安全保障について再考する
四方 立夫
エコノミスト
5月19日付け本欄への拙稿「日米安保なき日本の総合安全保障について考える」に関し、複数の方々から貴重なご意見を頂戴したことに深謝申し上げる。私は長年に亘り貿易と海外直接投資に携わってきたが、その際最も懸念されることはカントリーリスクであった。安全保障問題は海外とのビジネスに携わる者にとって最重要問題であり、海外駐在員にとっては文字通り死活問題であった。そのような観点から、今回は日本の核武装及び国民の危機意識に絞って、所見を述べる。
トランプが大統領に選出され、米軍が日本から撤収し、日本が米国の核の傘から外される可能性が急速に現実化しつつある。我が国としてはかかる最悪の事態に向けて、予め万全の備えをしておくことが必要不可欠である。特に、中国、北朝鮮、並びにロシアが急速にその核攻撃力を強化している中で、我が国が核の傘から外れることになれば、バランス・オブ・パワーを保つ上で「自衛のための核抑止力」が必要となろう。既に日本は、核兵器製造に必要なプルトニウムを保有し、ミサイル、潜水艦などの技術も備えていることから、政府並びに自衛隊のトップの間ではなんらかの検討が極秘裏になされているものと推測する。ただし、昨年中国の国連軍縮大使が日本の核武装の可能性に言及して、国連で公然と日本を批判したことからも明らかなように、中国は本件に重大な関心を寄せており、今後日本において核武装の議論が公然と行われるようになれば、日本国内の親中勢力を総動員して、強硬な反対論を展開するものと危惧される。
しかし、日本の置かれた総合安全保障の現状に関する日本国民の危機意識は必ずしも高いとは言えない。中国海警局をはじめとする中国艦船は頻繁に尖閣諸島周辺の領海を侵犯し、中国航空機に対する空自のスクランブル発進は過去最高を記録している。また、日本の主要官庁、企業等に対するサイバー攻撃も常態化しており、中でも日本年金機構に対する大規模な攻撃は記憶に新しい。2010年にイスラエルがイランの遠心分離器に対する攻撃に使用したとされるスタックスネットのようにサイバーは立派な兵器であり、かかる攻撃が日常化している日本の事態はもはや平時とは言えない。
それにもかかわらず、昨年の安保法制の国会審議に際し日本国民の6割以上がこれに反対し、その主な理由のひとつは「戦後70年間に亘り平和を享受してきたにもかかわらず、なぜ今憲法解釈を変えて集団的自衛権を可能にしなければならないのか?」であった。誠に遺憾ながら多くの日本国民の危機意識は極めて低いと言わざるを得ない。民主主義国である以上は、国民の広範な支持なくしてはいかなる安全保障政策も実施することはできない。日本政府、そして問題意識を共有する全ての関係者は、官民を問わず広く国民に対し、日本が置かれている危機的状況を説明し、啓発を行うべきであろう。このたびの「トランプ旋風」を全ての日本国民が自国の安全保障を真剣に考える機会としたい。
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