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2016-06-22 00:00
(連載2)EU離脱はグレート・ブリテンをリトル・イングランドにしかねない
河村 洋
外交評論家
逆に、イギリスもEU加盟の恩恵を受けられる。5月に行なわれた英議会公聴会では、ジョン・ソーヤー元MI6長官とジョナサン・エバンズ元MI5長官が「EUを離脱すれば、ヨーロッパ諸国との情報共有、そして究極的には対テロ作戦でのチームワークにも支障をきたしかねない」と証言している。アメリカのデービッド・ペトレイアス退役陸軍大将も『デイリー・テレグラフ』紙に3月26日付けで同様な趣旨の寄稿を行なっている。イギリスの識者の中には「ヨーロッパの共同防衛によってイギリスの主権が損なわれ、ひいてはドイツの支配をもたらしかねない」と警戒する向きもある。しかし王立国際問題研究所のロビン・ニブレット所長は「イギリスはEUを通じて自国の国益を叶えてきた」と指摘する。
イギリスの国際的なパートナーとなっている国々でEU離脱を望む国はほとんどない。アメリカはイギリスのEU脱退によってヨーロッパの自衛能力が低下するのを懸念している。そうなればアメリカがロシアに対する防衛上の負担をますます多く背負わねばならなくなる。またイギリスが引き続きヨーロッパに関与することで、環大西洋および中東地域とアメリカの軍事および諜報パートナーシップには有益となる。ドイツもイギリスの残留を望んでいるが、それは大陸においてフランスへの対抗勢力が必要だからである。その他の主要パートナーでは、インド、日本、そして西側との対立が多い中国でさえ、イギリスのEU残留を望んでいる。イギリスのEU離脱を望むのは、大西洋同盟の弱体化を目論むプーチン政権のロシアくらいである。
EU離脱論者は、EU脱退によってイギリスはヨーロッパとよりよい条件の合意を求めて交渉できると言う。しかし、トニー・ブレア元首相は4月25日のCNNとのインタビューで「貿易と労働力移動についての新しい合意には、ヨーロッパとの長く膨大な労力を要する交渉を行なわねばならない」と述べている。実際に、イギリスがEU離脱後にヨーロッパとの新しい関係を構築するための合意に向けて交渉を行なうには、全ての事柄を迅速に行わねばならないが、1992年にマーストリヒトで署名された欧州連合基本条約第50条によれば、脱退国がEUとの関係を再構築するための交渉期間は2年しか保証されていない。よってそのような制約の下でイギリスがヨーロッパからよりよい条件の合意を勝ち取れると考えるのは、現実的でない。
アングロ・サクソン諸国のエリート達はグローバル化を牽引してきたが、皮肉にもこの世界秩序に最も強く反旗を翻しているのが大西洋両岸の労働者階級である。アメリカでのトランプ氏の支持者達と同様に、イギリスでもEU離脱派は大衆の感情的な不安や反発に訴えており、6月16日には残留派のジョー・コックス下院議員が殺害された。エドマンド・バークが革命期のフランスさながらの混迷に陥った現在のイギリスを見れば、大いに嘆いたであろう。しかし、残留派もEU加盟の積極的な利点を訴えられず、離脱派への反論が現状維持を主張するだけだったことについては、批判を免れない。そのためグラッドストン時代以来、イギリスを支えてきた開放的な国際主義の理念は危機にさらされている。それによって6月23日の国民投票は混迷を深めている。(おわり)
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