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2016-07-01 00:00
(連載2)英のEU離脱選択と直接民主主義の問題点
角田 勝彦
団体役員、元大使
たびたび引用するが、古代ギリシャの哲人プラトンは「ポリティア(国家)」で、賢人(理知)が支配する「哲人君主ないし貴族政治」を最善のものとし、戦士団(気概)が支配するスパルタ型体制を次に置きつつ、物質的・肉体的欲望に関心を持つ集団(ホモ・エコノミクスと言えよう)が支配する、寡頭制(金持ち崇拝)、民主制と僣主制の危険を説いている。とくに極端な自由は極端な隷従へ振れるのが政治や社会のダイナミズムであるとして、大衆の手に移された政治「衆愚政治」は、最悪の欲望の持ち主による、卓越した人間の排除と戦争に捌け口を見いだす独裁体制「僭主政治」に転落する危険があると説く。
現在、民主主義に代わる選択肢はない。チャーチルは、つとに「民主主義は最悪の政治形態であると言える。ただし、これまで試されてきた全てのほかの政治制度を除けば」と喝破している。なおプラトンが最善と推薦した「哲人君主」制は、中世ローマ教皇を中心とするカトリック教会の神権政治で試行されたが、失敗している。直接民主主義ではスイスが有名である。6月には「最低生活保障(ベーシック・インカム)」制度の導入の是非が国民投票にかけられ否決された例がある。
しかし民主主義国家のほとんどにおいて、直接民主主義でなく、議院制にせよ大統領制にせよ代議制民主主義が行われている。これは、事務的問題のほか、「衆愚政治」へ堕する恐れのためでもある。米国の大統領選挙の際の代議員制度も本来はそのためだった。なお重要問題での直接民主主義による決定は国民の激しい衝突を生む恐れも強い。間接民主主義でも国民投票は直接民主主義の意味を持つ。英国は成文憲法も持たない国であり、今回の国民投票の法的効果には疑問があるとの意見もある(すなわちEU脱退は義務ではない)が、無効化には可能としてもよほどの術策が必要であろう。時が妥協の解決策を生む可能性もある。英国新首相の就任は早くても9月、その後リスボン条約50条に基づく英国の離脱の意思の欧州理事会への通知を経て、欧州理事会で離脱交渉への方針が決定される。そして交渉が開始され、2年以内に離脱が実現することになる。紆余曲折が続こう。
政府は英国に対し関係する日本企業への配慮を要請している。29日岸田外相の要請に対し、英国ハモンド外相は「日本企業を含む外国企業の意見をよく聞いて、EUとの離脱交渉に臨みたい」と応じた由である。オバマ米大統領は、28日ラジオ・インタビューで、EU離脱を決めた英国民投票をきっかけに起きている世界市場の混乱について「少しヒステリー状態になっている」「(英国がEUを離脱しても)大きな地殻変動が起きるとは思わない」「欧州の完全統合プロジェクトに一時停止ボタンが押されたと考えればいい」と述べ、冷静な対応を訴えた。「急いては事をし損じる」。我が国関係企業も対応の結論を出すのを熟慮すべきだろう。(おわり)
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