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2016-07-14 00:00
(連載2)ヒラリー・クリントン氏はオバマ外交路線から脱却できるか?
河村 洋
外交評論家
他方で、クリントン氏にはオバマ政権の外交路線を継承する気配があり、それはイラン核合意において特に顕著に見られる。しかしこの合意がチャック・シューマー上院議員をはじめ民主党からも批判されたのは、制裁解除によってイランが膨大な海外凍結資産を手にしてテロ支援ができるようになるからである。またサウジアラビアがイランの脅威の高まりに恐怖感を抱き、シーア派神権体制に中途半端な妥協をするアメリカへの不信感を強める中、地域の緊張は高まるであろう。何よりもクリントン氏の外交路線がウィルソン的理想主義なのかリアリストなのか、この演説からは判断が難しい。タフツ大学のダニエル・ドレズナー教授が論評しているように「クリントン氏の演説内容はトランプ氏のへの批判と言う点で非の打ちどころはないが、路線的に右か左か、ハト派かタカ派かといった分類は難しい」のである。私にはクリントン氏が共和党流出組とサンダース支持層のどちらも刺激しないよう、注意深い言動をとったように思える。
クリントン氏の外交路線をさらに理解するために7月1日に公表された民主党綱領の草案についても言及したい。ウォール街の財界人は党綱領にはサンダース氏の影響が強く、特に最低賃金維持のための規制と増税がおこなわれることには懸念を抱いている。外交政策について大企業が民主党綱領で重大な懸念を抱く点は「TPPに関して民主党内に『見解の多様性』がある」と記されていることである。彼らから見れば、そうした曖昧な表現はクリントン氏が自由貿易に積極的でないと思えてしまうのである。しかしトランプ氏はTPPをもっと激しく非難している。
よってクリントン氏がオバマ大統領より世界での指導力発揮に積極的かどうかを見てゆくため、重要となるいくつかの問題をとり上げてみたい。第一の問題は外交政策におけるアメリカの価値観である。「スマート・パワー」の標語とは裏腹に、オバマ政権期には民主化援助は削減された。党綱領草案の「我が国の価値観の守護」という項目ではジェンダーやマイノリティー問題といった人権問題には言及しているが、民主化の拡大についてはほとんど述べていない。中東のテロは「グローバルな脅威への対処」の項目では重要な課題である。民主党の草案では現在のシリア内戦にはかなり言及しながら、イラクについては、オバマ政権が彼の地から性急な撤退をしてしまったために全世界にテロが拡散したにもかかわらず、あまり触れられていない。またイランの代理勢力が両国に影響を及ぼしていることは見逃せないが、例の綱領草案ではオバマ政権の核合意にについて誇らしく記しながら、特にサウジアラビアとイスラエルに対するイランの脅威の増大には数行しか触れられていない。非常に不思議なことにクリントン氏は国務長官在任時にアジア転進政策を主導しながら、「グローバルな脅威への対処」の項目では中国が取り上げられていない。
ともかくクリントン氏はサン・ディエゴの演説でも民主党綱領の草案でも、トランプ氏が外交政策で語った「提示」なるものについては、明快かつ説得力をもって否定した。クリントン氏の世界政策はよく練られた正統派の見識に基づいている。トランプ氏の混乱した見解などとは比較にもならない。しかし、重要な点はクリントン陣営内での力のバランスである。バーニー・サンダース氏や他のリベラル派の影響力が国内での格差問題などにとどまる限り、事態はそれほど深刻ではない。私としては民主党右派、ネオコン、軍事産業、そして共和党からの流出組が外交および安全保障政策でより大きな影響力を持つことを望んでいる。そうなれば、アメリカは国際舞台でもっと強い存在となり、混迷する世界秩序の再建により貢献するであろう。(おわり)
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