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2016-07-19 00:00
強力な「世論外交(Public Diplomacy)」を展開せよ
鍋嶋 敬三
評論家
南シナ海における中国の主権の主張は国連海洋法条約(UNCLOS)に違反とするフィリピンの提訴に対してハーグの常設仲裁裁判所が7月12日、中国の主張を退ける決定を下した。決定が出る前から中国は「仲裁を認めない」「決定には従わない」と予防線を張ったが、敗訴後は決定を「紙くずだ」として国際法無視の姿勢を露わにした。国際秩序へのあからさまな挑戦である。。中国は南シナ海のほぼ全域を自国の管轄下にあるとの一方的な主張に基づいて、岩礁を埋め立てて、人工島を造成、軍事利用も可能な3000メートル級滑走路やレーダー施設、ミサイルの設置など国際的規範に背く行為を続けてきた。国際社会の平和と安全の維持に責任ある国連安全保障理事会常任理事国としてあるまじき態度である。
仲裁裁判所はUNCLOSに基づいて設置された紛争処理のための国際機関であり、決定には拘束力がある。そもそも中国はUNCLOSの批准国であり、決定に従う道義的責任がある。決定を無視して南シナ海に居座り続ければ、国際条約を守る意思がないことを世界に宣言するに等しい。米国のブレア元国家情報長官は決定翌日の上院外交委員会で証言し、「UNCLOS参加国として裁判所の決定を拒否する権利はない。拒否すれば中国は自ら批准したどの国際条約についても順守が問題とされるだろう」と述べた。日本政府は習近平政権の誤りを正して、南・東シナ海を含むアジア太平洋地域の平和と安全確保のため、活発な「世論外交(Public Diplomacy)」を進め、国際世論への働き掛けを強めるべきである。
中国の南シナ海戦略は、(1)東南アジア諸国連合(ASEAN)の分断、(2)紛争と全く関係のないアフリカ諸国に支持を求める、(3)「内海化」に向け既成事実を積み上げる、(4)米国には強硬姿勢を取りつつも軍事的対決への発展を避ける、(5)日本に対しては東シナ海の尖閣諸島や南西諸島で領海や接続水域への侵入を繰り返して圧力をかけ続ける、の5点から成る。7月15、16日モンゴルで開かれたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議の議長声明は、中国の強い反対で「南シナ海」に言及できなかったものの、「国際法の原則やUNCLOSに基づく紛争解決の原則で合意」した。この声明に照らしても、中国の姿勢が国際法と相容れないことは明らかである。
日本政府の課題は、首脳陣が先頭に立ち、議員外交も展開しながら、中国の違法性と、領土主権と排他的経済水域(EEZ)をめぐる日本の正当性を、国際世論に訴えることである。5月の主要国首脳会議(G7伊勢志摩サミット)では安倍晋三首相が議長として、東シナ海、南シナ海情勢への懸念を共有する共同声明をまとめた。今後、ASEAN関連の閣僚会議、域外国も多数含むASEAN地域フォーラム(ARF)や東アジア・サミット(EAS)、8月には日本が主催する第6回アフリカ開発会議(TICAD)の首脳会議がケニアで開かれる。二国間、多国間の協議、中でも日米を中心にオーストラリアやインドなどの同盟国・友好国との三極協議のシステムを強化し、これを軸にベトナム、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシアを含めたアジア・太平洋の安全保障グループの環を広げるべきである。中国はこれをもって「包囲網」と非難するだろうが、元をただせば地域の平和を乱してきた中国が蒔いた種であり、自ら刈り取るべきなのである。
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