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2016-07-19 00:00
高浜原発異議却下は訴訟戦術の失敗か
加藤 成一
元弁護士
大津地裁(山本善彦裁判長)は、7月12日、関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止め仮処分を取り消すよう関電が申し立てていた保全異議を却下した。却下理由の要旨は、「新規制基準に適合していても、安全性は確保されない。原発の設計や運転のための規制基準が具体的にどのように強化されたのかの説明や立証が不十分である。」というものである。新規制基準は、(1)地震・津波など自然現象の評価と想定を厳格化し、防護対策を強化したこと、(2)安全機能喪失(全電源喪失)の可能性のある火災などの対策を強化して、炉心損傷、格納機能維持、放射性物質の拡散防止、使用済み燃料プールの防護を図ること、などがその柱である。
関電は、新規制基準自体の安全性や合理性は、原子力規制委員会が定めた基準であるから、関電において立証する責任はないとして、新たな証拠は提出せず、一回の審理で結審を求めていた。結果的には、この訴訟戦術が失敗であったのではないか。確かに、新規制基準は福島原発事故の教訓と諸外国の最新の知見を踏まえて策定された世界最高水準の厳格なものとされている。しかし、裁判所が、それにも拘わらず、新規制基準に対して、なお一定の疑問や懸念を持っているとすれば、訴訟当事者としては、原審と同一の裁判長であっても、その疑問や懸念に一つ一つ丁寧に答えるための主張立証に全力を尽すべきである。決定するのは、原子力規制委員会ではなく、あくまでも裁判所だからである。
少なくとも、大津地裁は、福島原発事故の被害の重大性、深刻性から、新規制基準への適合性のみで原発の安全性が担保されたとは考えていないようであることは、審理の過程で関電自身も弁護団も理解できたはずである。なぜなら、田中俊一原子力規制委員会委員長自身も、2014年3月26日の定例記者会見で「新規制基準に適合しても、絶対安全という意味ではない」と言明しているからである。そうだとすれば、関電としては、新規制基準が諸外国の規制基準に比して格段に厳格であること、新規制基準の一つ一つに高度の安全性と合理性があること、新規制基準の一つ一つに高浜原発3、4号機が適合していること、の主張立証は当然のこととして、さらにそれに加えて、真剣に原決定の取り消しを求めるならば、関電としては、決して新規制基準を絶対視せず、それに満足もせず、さらに、新規制基準以上に厳しい具体的な数々の安全対策を現に自主的に実施していること、を積極的に主張立証すべきであったのではないか。関電がそこまでの主張立証をすれば、さすがに厳しい裁判所であっても、また、原審と同一の裁判長であっても、原決定を取り消さざるを得なかったのではないか、と惜しまれるのである。却下理由の中で裁判所は、「リスクゼロを求めるものではない」とも述べているからである。
関電は、原子力規制委員会が定めた新規制基準を絶対視し、これに適合しさえすれば、裁判においても再稼働が容認される、と安心し過信していた嫌いが窺える。そのため、裁判所の認識や意向に真正面から丁寧に向き合わず、裁判所と不必要に対立したのではないか。新たな証拠を提出せず、わずか一回の審理で結審を求めた訴訟戦術を見ても、そのことが窺える。大阪高裁の抗告審では、原子力規制委員長の「新規制基準に適合しても、絶対安全という意味ではない。」との言明の意味を再確認し、このことを肝に銘じ、少なくとも裁判においては、新規制基準を絶対視せず、関電としては、新規制基準を超えるさらに厳しい具体的な数々の安全対策を自主的に実施して、万全の主張立証を尽くせば、必ずや道が開けるであろう。長年様々な裁判実務を経験した者として、そのように思料されるのである。訴訟当事者にとっては、いつの場合でも「裁判所の認識や意向、判断は絶対」のものであり、裁判所と対立しては勝訴は不可能であることを、決して忘れてはならないであろう。
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