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2016-08-04 00:00
ポピュリズムに迎合してはならない
角田 勝彦
団体役員、元大使
「民の声」は「神の声」という。都知事選での小池百合子氏291万票獲得は、自民党石原伸晃都連会長に「完敗」を自認させた。野党4党が推薦した鳥越俊太郎氏が、自公推薦の増田寛也氏の179万票にも及ばない134万票の3位に留まったことは、民進党岡田克也代表が都知事選投開票の直前に党代表選(9月15日投開票)への不出馬を表明する事態をもたらした。政治家としての計算があったのかもしれないが、これは「敵前逃亡」とも評され、民進党への信頼を落とした。都知事選への関心は高く、投票率は59.73%で前回を13.59ポイント上回った。7月31日投票締切直後のNHK「東京都知事選開票速報」視聴率も20.0%と真田丸を超えたという。ポピュリスト(大衆迎合主義者)の批判はあるが、政党の組織力に頼らず小池百合子氏が獲得した都民291万票の支持は、「民の声」であろう。
諸政党が学ぶべきことが二つある。第一は、無党派層はもちろん、そうでない国民も、政党の公約や推薦を投票の判断基準にするが、盲目的に従うわけではないことである。東京都知事選で小池百合子氏に敗れた主要2候補はいずれも、推薦政党が7月10日の参院選で得た票の4割前後を取り逃がした。NHKの出口調査では、小池百合子氏は自民党支持層の50%、民進党の40%、公明党の20%、無党派層の50%、という党派を超えての得票を獲得した。小池百合子氏の勝因としては、自民党の「いじめ」(極めつきは党都連所属議員が非推薦候補を応援すれば処分するとの都連会長名の文書)を逆手にとって、日本人の判官びいきの感情を利用した、卓越したポピュリスト的手腕が指摘されている。しかし、選挙民の支持を獲得するためには、演説上手など候補者の個人的魅力が重要なのは、いかなる選挙でも同じである。人気が高いからといって、それだけでポピュリストとは呼べない。小池氏も都知事になった以上、自民党と孤独な戦いを続けるつもりはない。当選を決めた直後のあいさつから早くも連携を口にするなど、協調路線をにじませている。
自民党も同じである。推薦なしの小池氏出馬に対する処分に苦慮していると伝えられたが、勝てば官軍の現実主義者である。石原伸晃自民党東京都連会長やドンと呼ばれる内田茂自民党都連幹事長は、8月4日に辞意を表明した。2020年東京五輪・パラリンピックの成功には東京都の協力が不可欠との大義名分もある。第3次安倍再改造内閣を発足させた安倍首相は、3日の記者会見で、東京五輪をめぐり「都知事選で示された民意をかみしめ、丸川珠代五輪相を筆頭に都、都民と力を合わせて取り組む」と述べている。4日には小池新知事と会談して、東京五輪・パラリンピックの成功に向けた政府と都の連携を確認した。思ったより早く大人の妥協になった。
学ぶべき教訓の第二は、国民投票には慎重な対応が必要なことである。110万票の大差は与党の予想外だった。安倍首相が増田候補の応援演説に来なかったのは、敗北を予想したからと言われているが、応援に来てこれほどの票差が出ていたら安倍首相はそ鼎の軽重を問われていただろう。3日の記者会見で、改憲について問われた安倍首相は「自分の任期中に果たしていきたい」と答える一方、「大切なのは国民投票でその過半を得ることができるかということ」「まずは具体的にどの条文をどのように変えるか、国民的な議論の末に収れんしていくと思う」と答えている。同日夜のTVで、自民党の二階新幹事長も「首相の政治的信条は分かるが、強引にやっていくスタイルは受け入れられない」と指摘し、「(憲法改正は)国民全体の問題であり、一政党のものではない」と語り、与野党の幅広い合意形成が前提になると強調した。仮に諸政党の合意が形成されたとしても、国民、とくにいわゆる無党派層が賛成するとはわからない。小池氏の291万票は良い教訓になったと思われる。
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