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2016-08-26 00:00
(連載2)核兵器の「先制不使用宣言」について
角田 勝彦
団体役員、元大使
8月15日付ワシントンポスト紙は、安倍首相が米太平洋軍のハリー・ハリス司令官に対し、オバマ政権が検討している核兵器の先制不使用宣言について「北朝鮮などに対する抑止力が弱体化し、紛争の危険が増大する」として、反対の意向を直接伝えたと報じた。これに関し記者団の質問を受けた安倍首相は、8月20日リオ・オリンピックへ出発前の羽田空港で「米側はまだ何の決定も行っていないと承知している。今後も米政府と緊密に意思疎通を図っていきたい」と述べ、発言を否定した。ただし、日本政府が非公式に米政府に対し「核の傘の抑止力が弱まる」と反対を伝えたのは事実のようである。
日本は、日米安全保障条約により米国の核の傘の下にいる。1967年に佐藤首相が衆院予算委員会で表明した「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則があり、安倍首相は、2016年8月6日、広島原爆の日記念式典で「非核三原則の堅持」に言及し、記者会見で「日本が核兵器保有を検討することはあり得ない」とも強調した。これは横畠裕介内閣法制局長官が2016年3月18日の参院予算委員会で、核兵器使用について「国内法上、国際法上の制約がある」としたうえで、「核兵器は武器の一種。核兵器に限らず、あらゆる武器の使用は国内法、国際法の許す範囲で使用すべきものと解している」「憲法上、あらゆる種類の核兵器の使用がおよそ禁止されているというふうには考えていない」との見解を示したことに対応するものだろう。なお菅義偉官房長官は同日の記者会見で「(核兵器使用は)あり得ない。法制局からは過去の国会答弁を踏まえて答弁したと報告を受けている」と語り、問題ないとの認識を示した。
日本政府は「核の傘の抑止力」に縛られ続けている。式典後、安倍首相と広島市で面会した被爆者団体代表らは、核兵器の実験や使用を全面禁止する核兵器禁止条約の早期制定を核保有国に呼び掛けるように訴えたが、首相は「保有国と非保有国の双方に協力を求め、被爆の実相を世界に伝えることで核兵器のない世界の実現に向けた取り組みを進める」と、従来の政府方針を説明した。国連の核軍縮作業部会に対して核兵器禁止条約の締結交渉を来年中に開始するよう勧告する報告書採決に際しても、日本は棄権した。メキシコやオーストリアが主導し、68か国が賛成、韓国やオーストラリア、ドイツなど22か国は反対、日本など13か国が棄権だった。
「核軍縮は安全保障環境を考慮しながら進めるべきだ」と主張する核保有国は「禁止条約は受け入れられない」との立場で、「核兵器のない世界」の実現を目指していない。核軍縮の機運を高め核保有国に圧力をかけるためには、日本も理想に傾くことが必要だろう。(おわり)
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