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2016-09-01 00:00
安倍は毅然として東・南シナ海問題を提起せよ
杉浦 正章
政治評論家
最近あっけにとられた発言は、9月4日からの中国・杭州におけるG20首脳会議に関して中国外相・王毅が「客はホストの意向に沿ってその務めを果たせ」と発言したことである。首相・安倍晋三に対して大昔の朝貢外交のように「皇帝・習近平にひざまずけ」と言っているのだ。しかし、他国はともかく日本はそう簡単ではありませんぞえ。聖徳太子の書簡「日出る処の天子、書を日の没する処の天子に致す」が煬帝を激怒させたように、日本は一筋縄では行かない「周辺国」でござる。もう一人一筋縄ではいかない大統領もいる。オバマだ。オバマはG20での訪中で手ぐすねを引いて南シナ海問題で対中批判に出ることを考えているのだろう。安倍は、かまったことはない。たとえG20が経済を議題にする場であろうとなかろうと、オバマと組んで毅然(きぜん)として東・南シナ海での中国の暴挙をやり玉に挙げるべきだ。
一連の安倍外交を分析すれば、中国の海洋進出への防波堤構築に大きな主眼を置いていることが分かる。そして、現状はその路線が功を奏してきている。中国は封じ込められつつあるのだ。南シナ海では国際司法裁判所が中国の海洋進出を巡り、中国が主権を主張する独自の境界線「九段線」に国際法上の根拠がないと認定、訴えたフィリピンの全面勝利となった。習近平は中国外務次官・劉振民に同裁定を「紙くずに過ぎない」と言い捨てさせたが、国際社会のひんしゅくを買って、中国を「法と秩序を守らない国」と印象づけた。北東アジアでも孤立化は著しい。最も顕著なものは、韓国が米国の伝家の宝刀THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配備を受け入れたことだ。韓国がようやく日米軍事同盟側に戻ってきた。小国は変わり身が早い。THAAD配備は北の核ミサイル対策だが、北京を飛ぶ鳥まで見える能力を有している。圧倒的に極東における対中軍事バランスを変える。最大の原因は中国が北朝鮮の暴挙を、極東戦略上有利と判断して野放しにしたことにあり、まさに自業自得ということになる。東・南シナ海における中国外交の完敗である。
こうして、着々と中国包囲網は形成されつつあるが、焦点の一つはG20の際に日中首脳会談が実現するかどうかだ。中国外交が失礼なのは、米国には早々と習がオバマと会う日程を提示しておきながら、日本には例によって“じらし”作戦をとっていることだ。国家安全局長・谷内正太郎が最近の訪中でどのような結果を安倍に伝えているかが注目される。しかし、過去の例を見れば首脳会談は会うことにしか意義を見いだせない。別に恩着せがましく会ってもらわなくてもよいのだ。2年前に鳴り物入りで開催された日中首脳会談は4項目の合意にこぎ着けたが、中国はその内容と真逆の対応をとってきている。合意のポイントは「双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」である。
しかし、その内容は、日本の領土である尖閣諸島に「異なる見解」の存在を認め、日本が主権を守り抜く主張をする上で支障になった。「不測の事態の発生を回避する」と約束しているが、8月に中国が漁民と称する民兵が乗った漁船を尖閣周辺に300隻も押しかけさせ、これを取り締まるとして公船が領海内にまで侵入するという事態となった。避暑地に首脳が集まる「北戴河会議」の最中であり、おそらく習が「東シナ海でも頑張っておる」と言いたいための演出であろう。不測の事態は回避どころか、公船のみならず海軍レベルまで対峙を拡大しそうな空気だ。本格的な海戦となれば自衛隊の方が圧倒的に優勢であり、中国海軍が殲滅させられれば、日露戦争が共産主義革命を導いたように、北京に民主革命が発生しかねない事態になり得ることを、中国共産党首脳は分かっていない。しかし、今後中国は尖閣進入を既成事実化させる作戦を継続することは目に見えており、南シナ海でもほとぼりが冷めれば軍事基地化を推し進める事が予想される。大人しくしているのはG20が過ぎるまでだと考えていた方が良い。従って首脳会談などはしてもしなくても同じなのだ。いたちごっこは続くが、日本は堪忍袋の緒が切れるまで我慢に我慢をして軍事衝突だけは避けなければなるまい。
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