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2016-09-07 00:00
プーチンが北方領土で国内世論誘導を始めた
杉浦 正章
政治評論家
ウラジオストクでの安倍とプーチンの2人だけの会談で一体何が話し合われたのかが焦点だが、こればかりは最高機密で漏洩がない。しかしテレビに出る学者や評論家は、やれ「ブレークスルーだ」やれ「突破口だ」と早くもやんやの喝采をしている。中身を知らないままである。9月2日の首脳会談の時間は3時間10分であったが、そのうち55分間が両首脳に通訳だけが加わる2人だけの会談だった。安倍が情報を漏らさない以上推理で対応するしかない。山より大きいイノシシは出ないから、情報の山から分析すれば、恐らく「歯舞・色丹2島先行返還」 で、国後・択捉は「継続協議」的な色彩を帯びる可能性が高い。その段階で平和条約を締結できるかが焦点だろう。まず今後の段取りは、11月にペルーで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で日露首脳が会談、それを経て12月15日安倍の選挙区・長門での首脳会談となる。それまでの間水面下の根回しが進むが、安倍もプーチンも下の官僚機構に降ろさなければ事は進まないから、いずれはリークする。それに両首脳とも国内の世論対策が最も重要だ。安倍は好むと好まざるとにかかわらず、次期総選挙の焦点が北方領土問題になるから、どのような「2島プラスα」を打ち出せるかで政権の命運が決まると言っても過言ではない。とりわけプーチンは、何と国民の78%が北方領土返還反対であり、これをどう説得するかが極めて重要だ。プーチンの支持率80%以上というのは、クリミア併合で熱狂的喝采を受けた結果だが、今度は領土を手放すわけだから、支持率激減に直結しかねない。
日本国内には、「プーチンは高い支持率があるから決断できる」という学者がいるが、どの国の政治家が自らの支持率を落としてまで他国にいい顔をしようと思うだろうか。逆だ。支持率を維持するには国内の説得が必要だ。そこでポイントとなるのが、今後プーチンがロシア国内の世論対策に乗り出すかどうかであり、これがプーチンの真剣度を図るメルクマールとなるのだ。ロシアウオッチャーは、ここが1番肝心なので見落としてはならないのだ。案の定プーチンは開始した。まず「2島」から始めている。9月5日、杭州で プーチンは「思い出しておきたいのだが、ソ連はこの領土を第2次世界大戦の結果として手に入れ、国際法文書により登録された。ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。そこには南の2島(ハボマイ シコタン)が日本側に引き渡されると書いてある。しかし、この場にいるのは全員が法律家ではないため、私は法律家として次のことを言うことができる。つまり、『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、どの国の主権が保持されるのかは書いていない」と説明したのだ。
ロシアの国民も、マスコミも、北方領土問題の事実関係など知らないから、まず事実関係から説き起こしたのであろう。2島返還は持論ではあるものの、7月の日露首脳会談以降はなかったこのプーチン発言が意味するところは、少なくとも2島返還の可能性がある方向をロシア国民に印象づけ、誘導しようとしていると見ることが出来る。今後は自らが絶賛する日本の8項目の経済協力などの包括的な極東ロシア発展プランを、どのように国民にアピールしてゆくかが着目点だろう。日本の協力により、シベリアに夢と希望が湧いてきたことを国民にアピールして、国後、択捉での譲歩が可能かどうかを探る必要があるからだ。日本にしてみれば、歯舞・色丹で「はい、終わり」とされてはたまらない。過去のすべての交渉が、このネックで失敗に終わっているのだ。1956年の歯舞・色丹返還に関する共同宣言のあと、93年は「4島帰属の問題を解決して平和条約を締結する」と東京宣言が出されたが、そのまま。98年には橋本龍太郎がエリツインに「4島の北に国境線を引き、当面はロシアの施政を認める」 という「川奈提案」を提示。2001年に森喜朗がプーチンに歯舞・色丹と国後・択捉を分けて話し合う同時並行方式を提案。いずれもうやむやに終わっている。
安倍はこれらの方式を超越したかのような「新しいアプローチ」を提案、わざわざロシア経済分野協力担当相を新設して、プーチンに“本気度”を示した。ウクライナ問題での制裁と原油安で国内経済が低迷して苦境の極みにあるプーチンを“おいしい話”で釣り上げようとしているのだ。百戦錬磨のプーチンも、世界的な孤立と、閉塞感の中で一筋の光が差し込んでいると感ぜざるを得まい。今後の焦点は、そうしたプーチンが国後・択捉で妥協に出るかどうかだ。様々な解決策が模索されているが、まず面積等分論は極めて難しく、プーチンも否定的だ。2島返還後、国後・択捉を共同統治する案も、世界史上例は多いが、国家関係はいつ何が起きるか分からず、返って摩擦の原因になりかねない。そう見てくると、日本にとって何が最良かと言えば、「4島の帰属は日本」と明記した上で、歯舞・色丹を先行的に返還を実現した上で、平和条約を締結する。国後・択捉はロシアの施政権を認めて、軍隊の駐留も容認した上で、交渉を継続する案が考えられる。対露経済協力と人的交流の活発化でロシア側をメロメロにしたうえで、沖縄と同様に交渉により後日施政権の返還を実現するのだ。ここは日本も何らかの妥協を考える必要がある。領土問題は時効に持ち込まれたら終わりだ。急がなければならない。日露の接近は対中けん制の意味でもキーポイントとして重要である。また米国はオバマがレームダック中であり、あまり文句をつけられないだろう。それより日露が平和条約を結べば、米国の軍事力は中国だけを見ていればよくなる。米国の世界戦略上もプラスに作用するのだ。ここは日露双方が妥協により関係を正常化することが大局的には不可欠であろう。
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