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2016-09-25 00:00
対ロ経済関係が進まないのは北方領土問題のせいではない
河東 哲夫
元外交官
昨9月23日付けの読売新聞に「政府は歯舞・色丹の2島だけロシアから返してもらえれば、手を打とうとしている」との観測記事が出て、官房長官がそれを早速否定している。こういう記事が出てくる一つの土壌として、「北方領土問題のせいで経済関係が進まない。あんなものは適当に切り上げて、ビジネスを進めればいい」と言う人たちが、ロシアにも、日本にもいることがある。総理周辺にも、経済産業省にも、この手の人はいるに違いなく、中には「領土問題は中途半端でもいいから終止符を打ち、それを総理の得点として総選挙を打つ材料にすればいい」と思っている人さえいるようだ。
でも、この「北方領土問題のせいで経済関係が進まない」というパーセプションは、現実に根差していない。ソ連時代は「政経不可分」ということで「北方領土問題の話し合いが進展しなければ、経済関係も進めない」との態度を取っていたが、1997年エリツィンとの間で本格的話し合いを始めた橋本龍太郎総理は、この「政経不可分」という旗を明示的に下ろしたのである。だから、日本タバコはロシア一の紙巻煙草販売量を誇るし、トヨタや日産等も工場を開いているのだ。
なのに、何で北方領土問題が日ロ・ビジネスが振るわないことの犯人にされるかと言うと、それは儲からない面倒な案件をロシアに示された時、断る口実として日本企業が使っている面があるからだ。ロシアでのビジネスは容易でない。スウェーデンの家具大手のIKEAも、土地を入手し、建築許可を取得し、電気メーターをつけてもらうために大変な苦労をしている。「ロシアや中央アジアにはインフラ建設需要がごろごろしていて、ビジネス・チャンスの山だ」という人がいたら、自分でやってもらおう。チャンスとリスクは隣り合わせ。相手にはそもそも支払能力がないことも多いのだ。もう一つ、問題があるとしたら、それは右翼の諸組織がロシアと取引をする企業に目をつけることがあるので、企業幹部が最重要ではないロシア・ビジネスをことさら忌避することもあるのだろう。
ロシアとの経済関係がそれほど進まない(石油・天然ガス消費量の10%弱は既にロシアから輸入しているのだが)のは、北方領土問題のせいではない。進まないから進まない、つまり収益性の高い案件が少ないから進まないのだ。儲かる案件が多いなら、中国のように政治問題があっても、日本の企業はおかまいなしに出かけることだろう。ロシアとの経済関係は進める。しかし、日本が損してまで進める必要はない。そして北方領土はいつまでも返還を主張して行く。あせって、中途半端な「解決」を今求める理由はない。そんなことはせずとも、ロシアは日本に石油・ガスを輸出する。そんなことはせずとも、ロシアは日本企業の投資を切望している。そしてそんなことはせずとも、ロシアは極東でそれなりのバランス要因となってくれる。よし北方領土問題で手を打ったとしても、ロシアは中国を蹴って日本と準同盟関係を結んでくれるわけではない。
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